アビス2

□生かすために
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「ああ、カーティス大佐どうなさいました? 私の記憶が正しければ貴方は我々のご不興を買うので可能な限り喋らず視界に入らず息を止めて過ごすようマクガヴァン少将に言われていたと思うのですがその有能と称される脳味噌では既に忘却の彼方ですかそうですか天才って大変ですね。
あ、フリングス将軍はお借りしますけど貴方はお呼びではありませんのでどうぞお部屋に戻ってくださって結構ですよ貴方のお部屋は取ってませんがまぁ部屋くらい自分で取れるでしょう。
出発の際、遅れても呼びに行きませんのでそこの所はご自分で判断なさってくださいね。

え?イオン様にお話がある?おかしなことを仰いますねぇ。
皇帝名代とはいえ貴方はダアトに動乱をもたらした存在だと先ほど導師イオンが仰っていたのを聞いておりませんでしたか?
そうでなくともたかが左官如きがアポイントメントもなしにダアトの最高指導者である導師に近寄ることが出来るとでも?
導師を誘拐した存在で?暴動を起こした主犯として疑われている分際で?そんなことも習ってきませんでしたか親の顔が見たいとはこういう時に使う言葉なのですね初めて使いました貴重な経験をさせていただきありがとうございます。

ですが大佐も良いお年ですしそのような言葉など言われないようこの機会に是非ご勉強なさってはいかがでしょうか。そうすれば嫁も来るかもしれませんよ。
その年で未婚など問題のある男としか見られませんからね。
ではお勉強頑張ってください。応援してますよ心から。貴方がまともになりますようにと。

それでは、ごきげんよう」

パタン、と無情に締められた扉の背後では、イオンたちが腹を抱えて爆笑していた。

作戦会議の為にマルクトの宿屋で額を付き合わせていたのだが、イオン達は途中部屋を訪ねてきたフリングス少将とジェイドのコンビに当然のように私を差し出した。
アニスもまた渋々と言った感じでこの取次ぎを阻止しようと何とか頑張ってくれたようだが、多分フリングス少将がいるから断りきれなかったのだろう。
まぁフリングス少将を引き入れた後、ジェイドにはマシンガントークかました後反論する前にドアを閉めてやったから一言も声を聞いてないけど。
ちょっと失礼かなって思ったけど皆が楽しんでいたからよしとしよう。

フリングス将軍はレインからの手紙を見たピオニー陛下が、誘拐されてマルクトに来ているらしいキムラスカの公爵子息を保護せよと慌てて派遣した存在である。
馬を潰してセントビナーまで駆けて来ただけでもお疲れだろうに、あのジェイドの相手をしなきゃいけないんだから本当にご苦労様としか言いようがない。

そんな彼に大雑把な作戦の概要を説明し、預言に書かれたマルクト滅亡を回避するためにもと言えば、彼は最終的に自分から協力を申し出てくれた。
ようやくマルクト側にまともな味方が出来たことにホッとしてしまった。

「では万が一に、ルーク様がアクゼリュスに派遣された場合、鉱山の街へ入れないよう人を派遣しておきましょう」

「でも街道の使用許可はまだ出てないのでは?」

「国への忠誠心は皆無ですが、金さえ出せば契約を守る輩と言うのはどこにでもいるものです。それにことがことですから正規軍を使用するよりも確実かと」

「神託の盾でも住民の救助が出来ないか閣下に進言してあります。全ての住人は無理でしょうが、未だ健康を保っている労働者位は保護できるかと」

「ありがたい。マルクトの救助隊が潰されてしまった以上再編成には時間がかかります。
そちらにばかりご負担をかけてしまうこと、真に申し訳なく思います」

「ご安心を、後ほどきっちり請求させていただきすから」

「主様は本当にしっかりしていらっしゃる……」

請求される額を瞬時に計算したらしいフリングス将軍は胸元を抑えつつ口元を引きつらせていた。

そうだね、導師誘拐、暴動扇動だけじゃなく、誘拐の際に死傷した神託の盾や破損した建物に対しての慰謝料に加え、更にアクゼリュスへの救助隊の代行。
マルクト、つぶれないと良いね?そしてその大部分がジェイドが関わってるって時点でもうアイツ懐刀名乗るの辞めた方が良いと思う。
一番の問題は本人の自覚がないところだけど。

まぁ神託の盾が襲撃をかけている以上救助隊がつぶれてしまったことは100%ジェイドが悪いとは言い切れないので、全額まるっと請求とは行かないだろう。
示談と言う形である程度慰謝料を減額する形に落ち着くのだろうが、それでも莫大な金額になるのは間違いない。

こうして新たな仲間をパーティインした私達は、国境を越えカイツール軍港へ。そこからケセドニアに行き、事前に用意してもらっていた連絡船に乗りバチカル。王城に入った途端阿鼻叫喚に包まれたそこはまるでセインガルドのようで、思わず苦笑した私は片手をあげて彼らを止めた。ピタリと停止した彼らに、私は告げる。

「ルーク様の御身を我が教団に属する人間の親族が危険に晒した。そのことについて謝罪を」

「い、いいい、いえ! ぬぬぬ、主様や教団にはなんの罪もありませせせ!」

「ありがとうございます。それと、今後のことについて話したいことがありますので至急ダアトへお越しください。マルクト及びキムラスカ両国を含め話します」

「すすす、すぐに準備ををを!!!」

ドタバタと騒がしくなるその場にデジャヴ、なんて思っていれば、「ぬぬぬ、主様! 少しお休みにっ!!!」と大詠師が声をかけてきた。それに私はにっこりと笑みを返してやる。

「これはこれは大詠師モース。今回の件はいろいろとありがとうございます。お陰様で私はあなたの尻拭いをさせられましたよ。全く帰還早々主に迷惑かけるなんて……躾がなっていないにも程がありますね?」

「ひええええっ!!!!」

ずみ゛ま゛ぜん゛っ!!!!、と謝る大詠師に「さっさとダアトに戻る手配を」とピシャリと告げた。大詠師は半泣きで駆けていき、それを見送った私はキムラスカの王族貴族を見つめる。ビクリと震えた彼らは、「至急船の手配を!!!」と叫び、駆け出した。
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