アビス2

□忙しくなる
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ガッシャーンと音を立てて無情にも締まる牢屋。一緒に牢屋にぶち込まれたティアは既に泣きそうだ。ルークも困った顔をしている。

「いやー、本気で牢屋にぶち込むとは」

「脳味噌が足りてないんでしょう。常識を持っているならば和平を申し込む相手の国の公爵子息を牢屋にぶち込むなんてできませんから」

「アレでも天才なんだよ? アレでも」

「天才とは時に狂人と同意義だそうですよ」

「何呑気に話してるのよ! アレはどう考えてもルーク、さまと貴方が悪いんでしょー!?」

最早本気で泣きそうなティアの叫び声に私とミトスたちは阿呆な会話をぴたりと止めた。

「……これも世間知らず、に入るのかな?」

「いえ、一概にそうとも言えませんよ。やはり王侯貴族と一般人の常識は違いますから」

言って説明して差し上げようと、固いベッドの上に腰掛け手招けば、ティアは隣にちょこんと座った。それを見て、説明を始める。

まず、ジェイドはルークとティアに対しきちんと事情聴取をしなかった。
何故国境を越えたかはルークの扱いを考える上でも、そうでなくとも捕縛したというのであればきちんと調べなければいけない事柄であるにもかかわらず、だ。
この時点でまず私はジェイドはまともな軍人ではない、という感想を抱いていた。

次にルークが貴族であると解っていながら礼を失した点。
軍人ならば礼儀は叩き込まれる筈で、それができて居ない時点でこの男はまともな教育が施されていない、ひいてはマルクトは軍人にまともな教育を施して居ないということが読み取れる。
勿論不法に国境を越えた犯罪者だからという言い訳は通用しない。
ルークは誘拐による被害者であり、この場合国境を不正に越えたというのは適応されないからだ。
勿論、知らなかったという言い訳は通用しない。
どう考えてもきちんと事情聴取をしなかったジェイドの自業自得である。

こういった経緯があり私の中ではジェイドに対する不信感がぐんぐん育っていたのだが、そこでもたらされた和平の取次ぎ。
信頼がなければなしえない事であるし、私や、私と同じように取次をお願いされたルークには面子というものもある。
ジェイドが信頼を得る努力をしなかったが故に、まともな軍人ではないと判断した私は当然のように断った。

ルークにもこっそりと、君は保護を願い出る立場であり、政治のためにきていたわけではない。
更に言うならば、軟禁されている以上政治的な影響力は皆無に等しい。
と告げて断らせた。結果、不法入国者としての投獄。

冤罪の上に不敬罪を重ね侮辱罪を塗りたくった挙句不法投獄を行ったのである。
マルクトはキムラスカに喧嘩を売っているのかと言われても否定できないだろう。
たった一人の、愚かな軍人のせいで。

私の口からジェイドの行動の不味さを説明されたティアは、先程とは違う意味で顔色を真っ青にしていた。
ほんの僅かな対応の差で戦争になりかねない。それが貴族の世界なのだと知り、恐ろしいとぷるぷると震えている。

「とまぁ、大体は理解しましたか?」

「わ、わかったわ。さっきは何も知らないのに生意気なことを言ってしまってごめんなさい。貴族の世界って私が想像していたよりもずっと過酷なのね……ところで、ルーク様は貴族だからわかるのだけれど、どうしてリレイヌ様もそんな普通に対応を……」

質問を遮るように、耳を劈く警報が鳴り響いた。
反射的に立ち上がって戦闘体勢をとったティアは、間髪入れずにルークを背に庇う。ミトスたちも私を庇っていた。素晴らしい反応だ。

「襲撃のようですね」

私の一言にティアは顔を強張らせ、ミトスたちは嘆息した。

管制から聞こえる声から判断するに、どうやらグリフィンの集団による襲撃を受けているようだった。
アリエッタかと判断しつつ、どうしたものかと一瞬迷う。

と、そこに、まともな常識を持った第三師団の軍人から声がかかった。今のうちにお逃げくださいと牢屋から解放され、しかも彼は土下座せんばかりに私とルークに謝罪していて、常識があることを伺える。よかった。マルクトは終わってなかった……。
変に安堵しながら牢屋を出た。

出口を目指して駆けていると、途中どうしても通らないといけないとかで甲板に出る。
のだが、そこで案の定エンカウント。
戦う兵士さんとティアを心の中で応援……することはなくグリフィンの集団に「アリエッタをここへ!」と指示。グリフィンたちは奇声をあげながら旋回していった。ルークたちが驚いている。

「主様ぁあああああ!!!!!」

と、そこに声。振り返れば、上から黒髪の青年が降りてきた。

「お怪我はありませんか!!??」

「大丈夫です。それよりあなたはまともなようですね、アッシュ」

「はっ! 先ほど師匠から連絡が来たために正気に戻りました!」

「なるほどリックが……わかりました。ところで現在世界は非常に面倒な事象に巻き込まれておりまして、できれば他のメンバーにも事情説明をしたいのですよ。貴方だってこのまま何も知らない状態は嫌でしょう? リグレットとラルゴとアリエッタは最低でも同船していますよね?」

「しております!」

「では私が頼みたいことは……解りますね?」

「畏まりました!!」

「お願いします」

あいつ等も連れて来いと言う命令を汲み取ったアッシュは、どこにいやがるんだこの屑があああぁああと叫びながら三人を探しにいった。忙しい事である。
私はそんなアッシュを手をふりながら見送り、見送る私に対してティアは呆気に取られていた。
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