アビス2

□友達と連行
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食料の町、エンゲーブ。文字通り食料が豊富なそこでは、彩り豊かな果物や野菜、あとブウサギが存在していた。初めて見るブウサギに釘付けなリオン(普通に呼べと言われた)をよそ、町を見回していると目立つ赤毛を発見。「あ、ルークだ」と呟けば、ミトスが隣に来て「ホントだ」と目を瞬く。

「なんか揉めてるね」

「大方リンゴ盗み食いしたってとこかな」

「ああ、貴族と庶民は生き方が違うもんね」

知り合いか?、と訊ねてくるリオンに頷き、人々に囲まれたルークの元へ。「こんにちは」と声をかければ、振り返った人々が「ぎゃぁああ!!??」と悲鳴をあげて互いに抱きつく。その様を尻目、にこにことルークを見た。ルークは最初こそ首を傾げていたが、やがて記憶が戻ったようだ。「ああああ!!!!」と私を指さし声を荒らげる。

「リレイヌ!!?? なんでここに!!??」

「ミトスとシンクもいますよ。ルーク様こそなぜここに? あと思い出すまでにやけに時間かかりましたね」

「あ、いや、なんかこう頭にモヤがかかってたっていうか……って、ミトスたちもいるのか!?」

「はい。ミトスー。シンクー」

2人を呼べば、彼らはリオンと共にこちらへ。「久しぶりですね、ルーク様」と笑う彼らに、「普通に喋れよな!」と彼は憤慨する。

「公の場ですよ、ルーク様。それよりルーク様はなぜここに?」

「あ? そーだよ聞いてくれよ! なんかこの女が屋敷に侵入してきたかと思えばいきなり攻撃して来てよ! ヴァン師匠を狙ってたから間に入ったらぎじちょーしんどー? とかいうので飛ばされて……」

「……えっと、つまりルーク様は完全に被害者ということですか」

「被害者って、随分大げさに言うのね。あれはただの事故よ?」

口を開くなティア・グランツ。と思ったが仕方がないと腹を括って彼女を見た。

「大げさ? ただの事故? おかしなことを仰いますね。あなたはルーク様のお屋敷に不法侵入した挙句、屋敷の者達を……察するに眠りの譜歌で眠らせた。眠りの譜歌を使用するのは立派な傷害罪ですし、擬似超振動が意図的なものでないにせよこうしてお屋敷の外に連れ出してしまった事で誘拐罪が成立するでしょう」

「!? で、でも、擬似超振動を起こしたのは私だけじゃないわ」

「しかしティアさんは眠りの譜歌を使用して家宅侵入罪、つまり不法侵入した後、客人に対し殺人未遂を犯しています。合法的にお邪魔していたのならばともかく、その状態で自分だけのせいじゃないといわれても説得力はありませんよ。

むしろ家人であるルークさまの前で殺人未遂を犯しているわけですから、客人ではなくルークさまを狙っての襲撃だと思われて当然。元々誘拐するつもりだったのかと疑われて当然です。
今頃ファブレ家ではルークさまをかどわかした犯罪者として貴方の情報を集めようとしているでしょうし、貴方が狙ったというグランツ謡将も共犯を疑われているでしょうね。
最も、運良く共犯ではないと判断されても貴方の兄である以上良い感情が向けられることはありませんし、監督責任などを問われるでしょうが。

さて、ちょっぴり脱線しましたがルーク様は完全に貴方がしでかした犯罪の被害者って私が言った意味、解りました?」

ティアは狼狽えている。「で、でも」とか「その」とか言ってるので逃げ道を探しているのは明白だ。

「……ところでルーク様。ここまでの移動中戦闘は?」

「あ? 魔物倒すならやったぜ。戦えるなら戦えって言われたし……」

「なるほどなるほど。つまりティアさんは被害者であるルーク様に戦闘をさせたんですね。これはこれは……」

「な、なによ。戦える人が戦うのは当然でしょう?」

「そうですか。では想像してみて下さい。犯罪の加害者が『今からアンタ送り届けてやるから一緒に戦え当たり前だろ』と被害者に対して言ってるところを。そんな加害者を反省していると思いますか? 謝罪の意思があると思えますか?」

「い、いいえ……」

「そうですね。反省の色なんて全くないと思われても仕方ありませんね。よくて監獄行き悪くて不敬罪で首飛ばせますね」

首飛ばせる、と言ったらティアが震え始める。徐々に顔を青くする彼女は、「え、えっと、でも、私一人で戦うのは……」と弱々しい声を発した。

「そうですね。あなたは軍人でもなければただの一般人。戦うのは怖いでしょう。ですが、だからと言って、ルーク様の客人を殺しにかかったのは事実です。そんなあなたが一人で戦うのは恐ろしい、なんて宣っても誰も信じてはくれませんだって人殺しに行ってるんですものね。おわかりですか? 犯罪者なんです、あなたは。犯罪者が罪を償うためにはそれ相応の誠意を見せなければならないと思うんですよね、私」

「ど、どうすればいいのっ?」

「まずはルーク様に謝罪を。そしてルーク様が帰還するまでにその御身をあなた一人で守り抜きなさい。軍人志望であったならそれくらいできますよね?」

「は、はいっ!」

ティアは即座にルークに頭を下げる。おお、とミトスたちが拍手しているのでこれはなかなかの成果と言ってもいい。リオンはなにがなんだかわかっていない様子なので後できっちり説明してあげよう。

「あれ? そういえば皆さん、先ほどルーク様を囲ってなにやら騒々しくなっていましたね。もしやなにかありましたか? それでしたら私は揉め事が終わるのを待っていますのでそちらの件を終わらせてからルーク様とお友達談義でもしましょうかね」

「「「なにもありません!!!!」」」

「そうですか。では失礼させていただきますね」

うふふ、と微笑みルークの背を押しその場から退散。ルークは「助かったぁ」と安堵していた。
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