デスティニー
□懐かしさ
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「三人だと聞いていたが……」
「その、だな、手数は多い方が良いと思ってな」
「なるほど……」
人の気配が殆ど無い街の外れで、リオンくんから助っ人の証拠を受け取った、トウケイ軍の兵士。彼はリオンくんの歯切れ悪い説明に納得したのだろう。こくりと一度頷いた。
「しかし困ったな……肝心のジョニー様が何処に行ったのか……」
「どういう事だ?」
「聞いているとは思うが、シデン家の三男ジョニー様とモリュウ家の現当主フェイト様は幼なじみなんだ。ティベリウスがこのモリュウに侵攻して来たと聞いてジョニー様が国本を飛び出しこの街に来たのだ、無断でな」
「僕達はその三男坊の力になれ、と」
間者である兵士は再び頷き、溜息をつく。
表情から察するに、状況は良くないらしい。
「実はフェイト様が処刑されると布令が出てな……それからジョニー様の姿を見ていないんだ」
民から慕われる領主の処刑を決断するという事は、それだけ大きな自信があるという事か。
いやしかし、ジョニー……。どこかで聞いたような……。
「リアーナ様が捕らえられている以上、フェイト様は何も出来ない。だというのに、ジョニー様は一体何処に行ったのか……」
「捕らえられた領主とその幼なじみ……すべき事は見えてきたな」
リオンくんは告げ、兵士に街の中への道を訊く。彼は了承し、道筋を伝えた後、注意を促した。
「ジョニー様は一目見れば分かる思う。しかし今、ティベリウスが此方に向かっているとの話がある……行動には充分気をつけてくれ」
「分かった、そちらも気付かれない様にな」
間者の存在が敵方に知られると、此方にも危険が及ぶ。彼が忠告に礼を言い街に戻った後、私たちも街の中に足を踏み入れる。
「するべき事って言うのは、ジョニーっていう人を見つけて、フェイトって人を助ける事だよな?」
「ああ、シデンとモリュウ……どちらも味方に出来れば、心強いからな」
スタンさんの問いにリオンくんが答えた所で、街の路地裏に出た。
このモリュウ。建物の作り等はシデンと変わらないが、大きな堀があり、その向こうに城が聳え立っていた。日本を思い出すなぁ、なんて思考しながら周囲を見回せば、街の雰囲気が暗いのがわかる。人は疎らで、活気は全く無い。
「ゴーストタウンね……」
「領主が捕らえられたとあっては仕方ありませんわ……」
ルーティさんとフィリアの会話をよそ、ふと聞こえた歌声にそちらに顔を向けた。と、そこには人集りが……。
「……なんでしょう?」
「歌が聞こえるね」
「こんな時に呑気じゃない?」
なんて話し合いながら人集りの方に足を向けると、その中心に弦楽器を鳴らし歌う道化姿の男が見えた。金色の髪のその男は、どこかで見たことがあるような気がする。
「……あの人」
「? どうかした?」
「いえ、見覚えがあるような……」
どこで見たっけ?、と悩んでいると、兵士がこの人集りに駆け寄り、叫んだ。
「ティベリウス様よりお話がある! 今すぐ、港に集まるのだ!」
兵士の言葉に、集っていた街人に動揺が走る。ふと道化師を見れば、どこかに逃げるように消えていた。その際、チラリと目を向けられたのは、恐らく気の所為ではないはずだ。
「……なんだったんだろ」
「さあ?」
さり気なく私の前に立つシンクをよそ、ミトスと一緒に道化男について首を傾げていれば、リオンくんが港を見てくると告げて歩いていった。私たちは隠れていろとのことだ。
「隠れるったってどこに……」
「ていうかアイツ一人で大丈夫なの? 絶対なんかやらかすと思うけど……」
「まあまあ、リオンはすごい奴だから大丈夫だよ! それより、俺たちも何処かに身を隠そう! えーっと……」
言ってどこぞへ歩き出すスタンさんを追いかける。
暫く適当に進むと、「ちょいとお前さんたち」と声をかけられた。振り返れば、先の道化男が笑顔で近づいてくるのがわかる。
「ここは危険だ。こっちに来な」
まるで怪しいセリフだ。が、その一言と共に兵士たちが騒ぎ出す。どうやら港で一悶着あったらしい。
「ほらみたことか」
シンクの呟きに苦笑し、「リオン連れてくる!」と叫び駆けていったスタンさんを一瞥。とりあえず今は彼について行こうと、ミトスを先頭に私たちは寂れた小屋の中へ。そこには地下があり、進むと小さなボートが置かれた船着き場に出た。
「ここは……」
「怪我はないかい?」
「え? あ、はい。ないです……」
「そうか。よかった」
にこやかに笑う男に戸惑う。ミトスから認識阻害魔法はかけてもらっているが、まるで彼は私を知っているような雰囲気だ。
つまり、魔法が効いてない?
まあミトスは駆け出し魔法士だからそうあっても別に驚きではないのだが……。
悶々と悩んでいれば、男が上へ。少し待っていれば、スタンさんとリオンくんが到着。フィリアに声をかけられ、リオンくんが戸惑いを見せる。
「フィリア……どうして此処に」
「それは……」
「俺が声を掛けたのさ」
顔を上げると、上の階から男が降りて来た。
彼は笑顔で、それに対しリオンくんは断言する。
「ジョニー・シデンだな」
「ああ、お宅等は国本からの助っ人……か、ホントに」
「そうだと言ったらお前は信じるのか」
「いや、ティベリウスの野郎がアンタを知ってる以上はな」
それは仕方ない事だが、新たな疑問を抱く。
「何故、僕達を助ける様な真似を」
「んー……気紛れ、かな。それに、ティベリウスの野郎が嫌いなもんでね」
飄々とした態度の男は、視線をこちらへ。不思議に思い一礼すれば、にこりと微笑まれる。
「……ま、コレも何かの縁って事で秘密基地にでも招待しようかね。ボートに乗りなよ」
これが味方であっても本来なら警戒するべきところだが、このまま此処に居ても何れは兵に見つかってしまう。
仕方がないと、私たちはボートに乗り、ゆっくり水路を進んだ。
「大王ティベリウス……かなりの武人なんだろうな」
「アイツが負けたのは、今の所手の指で足りるって話だしな。ま、剣の腕は一流でも、国の頂点としてはなー」
リオンくんに答える様にして酷評はするが、その顔はやっぱり笑っている。
道化と呼ぶに相応しい。
「さ、着いたぜ。ちょっくら情報交換でもしてみるか」
ジョニーさんの案内で、私たちは街の外れに立っている家屋に入った。中はアクアヴェイル独特の作りだが、それだけで特に変わった所は無い。
と思いきや、ジョニーさんが壁の一部に手を掛け、スライドさせる。そこから現れたのは隠し通路だ。
「スゲー、隠し通路」
「隠してなきゃ、秘密基地じゃないからな」
進んだ地下は、武者鎧が飾られた薄暗い部屋。
そこには既に、先客が居る。
「若! 今まで何処に!」
「すまんすまん、ちょっと色々な」
臣下であろう男に詰め寄られたジョニーさんは、笑顔で彼を宥めた後、私たちに腰を降ろす事を勧めた。
座卓を囲み、各々の情報が提示される。
「グレバムに神の眼か……ティベリウスが侵攻を始めるわけだ」
ジョニーさんが呆れた様に笑った。
直後に、リオンくんがシャルティエさんを座卓に置き、問う。
「ジョニー、この剣が、この国の宝剣だというのは本当か」
一体なんのことか。
数十秒沈黙が流れた後、道化は変わらぬ笑顔で答えた。
「ああ、その剣はこの国の宝剣。昔何者かに盗まれて、当時大王だった親父がティベリウスに責任を問われる形で大王の座から降ろされたのさ」
「そして、ティベリウスが大王にか……」
「そ、奴も頭は使えたってわけだ」
自分の父親の事だというのに、まるで他人事の様に彼は話す。その態度に、違和感さえ持たせない。
「フェイトの奴も大変だな、領主なんて面倒な立場になったモンだから」
「若、その様な言い方は……」
「べつにいいだろ、俺には関係無い話だ。政治絡みは面倒過ぎて俺の性に合わん」
「なっ……若はフェイト様をお助けする為に国を出たのでしょう!?」
臣下の懇願にも似た問いに、道化の男は不適な笑みを浮かべ、言い切った。
「処刑なんておっかねェ事に首を突っ込めるかよ。それに、武人であるフェイトがティベリウスに屈したんだ、俺にはどうにも出来ない。アイツも領主としてハラは決めてるだろ」
呆然とする臣下を置いて立ち上がり、彼は部屋から出て行った。
痛い沈黙が、室内を包み込む。