デスティニー

□鎖国
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「……懐かしい感じがする」

鎖国の島国、アクアヴェイルに到着して一言。ポツリと呟いた私に、ミトスとシンクはじっと目を向けていた。

3人仲良く就寝した翌日のこと。朝から屋敷は大事だった。なんでも、フィリアが朝食を持ってバティスタに会いに行ったら、部屋に彼はいなかったんだとか。鍵が開いていたのできっと誰かが手引きしたんだと話し合う彼らにへー、と3人頷いていると、一足遅れてリオンくんが客間へ。事情を聞き、「僕がやった」と白状する。バティスタにつけたティアラには発信機がつけてあり、それで彼を泳がせようとの作戦らしい。

バティスタが向かったのは、発信機によればアクアヴェイルなる島国のようだった。
リオンくんはすぐにイレーヌさんに頼み船を用意させ、私たちは鎖国の国へ。島から少し離れた位置にてボートを用意してもらい、それに乗って島への上陸を完了させる。

「意外と普通に上陸できたわね」

「誘われてるのかもしれませんね」

「怖いこと言わないでよ……」

ルーティさんとそんな会話をしながら、シデン領なる場所に向かった。

踏み込んだそこは、言うなれば日本のような作りをした場所であった。ミトスが「ミズホみたいな所だね」と言うのに同意を示し、「リレイヌの正装みたいな服着た人が多いね」と呟くシンクに微笑。「着物ですね」と答えれば、2人のみならず他の面々の視線も私へと向けられる。

「きもの……?」

「その土地特有の民族服のようなものです。私の暮らしていた日本、という国で古来より愛された衣服でもあります。胸がない方が綺麗に着れるんですよ、あれ」

「女の敵みたいな服ね……」

ていうか日本って?、と問われ、私は笑顔で答えた。

「日本は、東アジアに位置し、日本列島および南西諸島・伊豆諸島・小笠原諸島などからなる民主制国家です。首都は東京都とされていますね。気候は四季の変化に富み、国土の多くは山地で、人口は沿岸の平野部に集中しています。国内には行政区分として47の都道府県があり、大和民族・琉球民族・アイヌ民族・外国人系の人々などが居住し、事実上の公用語として日本語が使用されているんです」

「……結構デカイわね」

「全然。日本は小さい島国です。まあ、料理は美味しいですよ。とても。日本料理である和食はぜひとも一度は味わってほしくあります。まあ、外国の方にとっては箸の使い方から学んでいただかなければなりませんが……」

へー、と彼らの声が揃う。「リレイヌって物知りなんだなぁ!」とスタンさんが笑うので、「どうも」と柔らかく微笑んでおいた。

「和食が美味しいのは認めるけど、日本って修羅の国だからなぁ……」

「違います。今は平和を掲げる国ですしそんな偏見困ります」

「平和を掲げる国にしてはえげつない話多いんだよね……」

「そうですかね? 普通では?」

「リレイヌ。君はそろそろ普通っていうのを学ぶべきだと思う」

ミトスの疲れたような言葉に、その隣でシンクがうんうん、と頷く。そんなに日本ってえげつないか?、と考え込んでいたら、一人の女性が話しかけてきた。「そ、そこのお嬢さん! あんたまさか!」とかけられる声に振り返る。

「私ですか?」

「ああ、ああ、なんてことだ! 悪いことは言わない! はやくお逃げ! 今のアクアヴェイルはあんたにとって危険すぎる! この領にもいつ奴らの魔の手が伸びるか……!」

「奴ら?」

「ティベリウスさ!」

叫んだ女性はこう続けた。
なんでも、トウケイ領主のティベリウスという輩が、私の噂を聞き付け私のことを探しているのだと。
艷のある黒い髪に透き通るような青の瞳。まるで人形のような容姿の女を見つけたら即刻連れてこいと、各領に伝達があったらしい。

「人形って……」

困ったように告げれば、女性は「はやくお逃げ」と、不安そうに私を見た。

「ティベリウスに捕まればなにをされるかわからない。悪いことは言わない。今は身を隠すんだ」

「そうですね……ご忠告痛み入ります」

ぺこりと頭を下げ、「私は領の外に出てますね」とリオンくんに一言。リオンくんは「そうだな……」と呟いてからミトスとシンクに視線を向ける。

「僕たちは少し情報を集める。万が一のこともある。2人はリレイヌの傍にいろ」

「まあ、それは当たり前なんだけど……」

「ちゃんとリレイヌが狙われてる理由も調べてきてよね」

「ああ」

頷いたリオンくんを見届け、私たちはシデン領の外へ。「なんで鎖国中の島国の領主がリレイヌのこと知ってるんだろ……」と呟くシンクに一度目を向け、私は領を振り返る。

『俺が君の言う、立派な大人になったら、その時は君の名前を教えてくれ』

約束だ、とやや一方的に交わされたそれは、果たして誰と交わしたものであったのか……。

「……感じた懐かしさは、間違いではなかった、か……」

ポツリと紡いで、沈黙。視線を向けてくるミトスたちに「なんでもないよ」と告げ、私はリオンくんたちが戻ってくるのをひたすら待った。
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