デスティニー

□旅
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「あああ主様!!! 主様ではありませんか!!!!」

「おや、あなたはもしやフィリアですか? 随分と成長されましたね。見違えるほどです。まさかストレイライズ神殿の神官になっているとは思いもしませんでした」

「主様を崇められるならばと神官に立候補した次第でございますっ!!! それよりも怪我などはございませんか!!?? 体調の不良は!!?? あああ主様を歩かせるなんてなんということ!!!!」

「私だって足があるのだから歩きますよ、フィリア」

一方は荒ぶり、一方は穏やかに。会話を為す2人を見つめる一同は、既にリレイヌと会ったものは大半がこうなるのだということをこの短時間で学んでいた。
神の眼が保管されていた場所に石化された状態で捕らわれていた彼女、フィリア・フィリスは、えぐえぐと泣きながらリレイヌの手を掴みすりすりとその滑らかな肌を摩っている。過剰なスキンシップだ。

「……リレイヌってなんでこう変なのに好かれるんだろうね」

「……天然タラシだから仕方ないんじゃない?」

こそっと告げたミトスとシンクに聞こえてるぞ、と笑みを深めたリレイヌは、未だ手を摩ってくるフィリアに「フィリア、再会を喜んでくれるのは有難いんですが、そろそろ行かなくては……」と声をかけた。フィリアはそれに、若干どころかとてつもなく残念そうな顔を隠しもせず、渋々とリレイヌの手を離してそろそろと彼女から離れる。

「……ダリルシェイドに戻るぞ。一先ず、神の眼が盗まれたことについて王へ報告せねばなるまい」

知ってると思うが、ということは飲み込んで、リオンは告げた。そして、監督役らしく指示を出し、今回の犯人の顔を覚えているということで、共に神の眼を追うこととなった、神官たちから激励されるフィリアへと目を向ける。

「神の眼なんぞ二の次だ! 決して主様を傷つけぬように!」

「はい!」

「無理はさせるでないぞ! 神を崇める者としての責務を果たすのだ!」

「もちろんです!」

「反逆者は徹底的に殺るんだぞ! 神への冒涜者は許すな!」

「心得ておりますわ!」

……とても不安だが大丈夫だろうか。

年輩の神官たちがあれやこれやと助言するのをよそ、「なんというか、盲目的だね」と呟いたシンクの言葉にそちらに目を向ける。腕を組み、荒ぶる神官たちを冷たく見やる彼の傍、リレイヌは困ったように笑いながら、「そうですね」と嘆息した。

「崇められるのは別にいいんですが、ちょっと度が行き過ぎると困るんですがね、さすがの私も……」

「言ってたもんね。盲信者は嫌いだって」

「そりゃそうですよ。盲信者も狂信者も似たようなものです。そんな方々に崇拝されるなんて、誰だって嫌でしょう。一歩間違えれば犯罪の理由にすらされるんですよ? ハッキリ言って迷惑です」

「まあ度が過ぎたら引き剥がすから安心してよ」

「頼みました」

こそこそと話し合う彼らの会話が終わると同時、フィリアへの激励も済んだようだ。ふすふすと「頑張りますわ!」と意気込んでいる彼女からさり気なく距離をとるリレイヌたちを尻目、「では行くぞ」とリオンはさっさと踵を返し神殿を後にする。
血なまぐさい神殿を出て、森を抜け、近場の町で一休憩挟んでからダリルシェイドへ。途中なぜ神の眼がレンズだと教えてくれなかったんだ、と文句を告げるルーティに呆れを覚えながら城へ。謁見の間へと通され、神の眼が奪われたことを報告する。

「……だろうな」

王は遠い目で頷いた。

「陛下、これより我々はグレバムが向かったらしいカルバレイスに向かいます」

「……主様」

不安そうな王の視線に、リレイヌは柔く微笑み「大丈夫ですよ」と一言。王は深々と不安に彩られた息を吐き出すと、考えをまとめて口を開く。

「カルバレイスはその土地柄、他国の船が近づくのに良い顔はしないと思われる。港町のチェリクにはオベロン社の支部がある故、ヒューゴに船を出すよう指示を出しておこう。……正直頼りたくないが」

リレイヌから真実を聞かされてからというもの、さり気なくヒューゴを廃する動きを水面下で行っているらしく、謁見の間にはいつもいるはずの彼の姿はなかった。その事実にきゅっと口を噤んだリオンは、軽く俯き、顔を上げ、頭を下げる。

「……船の準備が整うまでは適当に時間を潰してくれ。一時間程で大丈夫だろう。主様には客間をご用意しますのでそちらに……」

「あ、いえ、ダリルシェイドを見て回りたいのでお気遣いなく」

「……では兵を数人身辺警備に当たらせます」

「いりません。というか、そんなことをしたら目立ちますよね?」

「ではどうしろと!!???」

「何もするなと言っています」

セインガルド王の提案をぶった切っていくリレイヌは、呻く王を見て、それから「せめて影だけでもお付けください……」と悩ましげなドライデンに渋々頷く。ようやっと了承を得られたことにホッとした王が、「では暫し待つがいい」と告げ、謁見は終了。「やっぱ絶対おかしい」と悩ましげなルーティを放置し、リレイヌがミトスとシンクを振り返った。

「なにかしたいことはありますか?」

「僕は特に。リレイヌの好きに決めなよ」

「そうだよ。あんまり外に出られる機会ないんだからさ。こういう時にはめ外しとかないとストレス溜まる一方だよ」

「んー、しかし、あまり楽しむのも……」

「……きっと皆、許してくれるよ」

困ったように微笑んだミトスに、リレイヌは少し悩んだ後に、こくりと頷いた。「じゃあ、甘いもの食べたいです」と朗らかに告げた彼女に、護衛2人は頷き、「アンタらはどうすんの?」と振り返る。

「あたしは集めたレンズの換金に行くわ。マリーは?」

「お供しよう」

「俺もルーティについて行こっかな。レンズあるし」

「私は主様とご同行させていただきますわ」

「そう。リオンは?」

「……罪人から目を離す訳にはいかない。換金が終わったら合流する」

「了解。じゃ、リレイヌ、行こっか」

促すように片手を差し出したミトスの手を取り、リレイヌはシンクとフィリアに囲まれながら歩き出した。少しだけ嬉しそうな、だというのに悲しそうな彼女の姿をぼんやり見つめていたリオンの肩に手を置き、ルーティはにやりと笑う。

「なぁにそんなに熱い視線送ってんのよ」

「は?」

「ま、リレイヌかわいいから気持ちもわかるけどねぇ〜」

にやにや にやにや。
向けられる笑みにその言葉の意味を察し、リオンは顔を顰めて「ちがう」と一言。馴れ馴れしく肩に置かれた手を振り払い、「さっさと行くぞ」と換金所を目指して歩き出す。

『……なんで楽しむのに、許しがいるんでしょう』

シャルティエの言葉に、知るかと内心吐き捨てた。
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