デスティニー

□厄介事
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「……ん」

もぞり。かけた布団の中で動けば、沈んでいた意識が浮上する。まだ覚醒しきれていない頭をそのままに上体を起こせば、ピチピチと、明るい鳥の声が聞こえてきた。歌うように囀ずるそれは、部屋の窓近くから聞こえている。

『あら、早いのね』

ふと声がして、部屋を見回すようにぐるりと頭を動かした。しかし、起きているのは私だけ。他の面々は今だ毛布にくるまり夢の中だ。話せる人は誰もいない。

『あなた、まさか私の声が聞こえているの?』

再び聞こえてきた声に、私は無言で頷いた。頷いて、声がした方向。すなわち、ルーティさんの眠るベッドサイドへと目を向ける。
ベッドサイドにはルーティさんの荷物と装備品、それから一本の剣が立て掛けられていた。オレンジ色のコアが目立つそれは、なかなかに見ないデザインの剣だ。
ベッド上に座り込み、私は首を傾ける。

『はじめまして、リレイヌ。私はアトワイト。ルーティの扱うソーディアンよ』

「ソーディアン?」

『人間の記憶や人格を、高密度に高熱集積したレンズ、コアクリスタルに投射し、剣に装着した意思を持つ剣のことだ』

新たな声に振り返れば、スタンさんの眠るベッドサイドに目がいった。そこにはアトワイト、と名乗った剣とは別に、ごついデザインの剣が存在している。

そういえば昨日、眠る前にスタンさんがディムロスがなんちゃら言ってたような……。

記憶を掘り返しながら、「ほう……」と頷く。

『私たちの声が聞こえるということは、ソーディアンマスターになれる素質があるということよ』

「ソーディアンマスター……」

『我らソーディアンを扱う者のことだ。極一部の、限られた人間にしかこの素質は表れない』

「……つまり、選ばれた者、ってことですか?」

横から声が聞こえ、そちらに目をやればミトスの姿がそこにはあった。寝起きで眠いのか、軽い欠伸をこぼしながら起き上がる彼は、私を見て「おはよう」と微笑む。浮かべられたやわらかなそれに、私も微笑んで「おはよう」を返した。共にシンクが「うるさい……」と呟き身を起こす。

「こんな朝っぱらから誰と話してるのさ。ソーディアンとかコアクリスタルとか、わけわかんない単語飛ばさないでよね」

「ごめんごめん」

謝れば、『驚いた』と声。アトワイトさんを見遣れば、彼女のコアクリスタルが淡く輝く。

『あなたたち、3人ともマスターとしての素質があるのね……』

『子供だからと侮ってはいけんわけか』

驚く二対の剣。直接頭の中に響くようなその声に、ルーティさんが呻いた。やかましいと思っているのか、彼女は起き上がると、「なんなのよ朝から。うるさいわねぇ……」と目を擦る。

『あら、ルーティおはよう。今彼女たちとお話していたところなのよ』

「は? お話? 誰と?」

『ミトスとシンクとリレイヌだ』

パッと、ルーティさんはこちらを向いた。こちらもアトワイトさんたちと同様に驚いているのか、大きな目を真ん丸と見開いている。マスターの素質が極一部の人間にしか表れないというのは、どうやら本当のようだ。驚く彼女に、にこりと笑う。

「……まあ、そういうこともある……のかしら?」

戸惑いながらも一言。間の抜けた発言をするルーティさんに、アトワイトさんは『珍しいことよ』と微笑んだ。
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