アビス

□覚悟
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「……話って、なに?」

ベッドに寝かされたリレイヌが、イーズ様の手を縋るように両手で掴み、丸まるように寝入っている。それを見兼ねてか、ベッドの縁に腰掛けたイーズ様は、こちらを見て「座りなさい」と一言。師匠に肩を押され、ボクたちは用意された椅子に腰かける。

「……今回の件で、アジェラという、僕たちと敵対する宗教団体がどういうものか、少なからず理解したはずです。あの主様をここまで追い詰める非道さや残虐さも、大方わかったかと」

「……うん」

「……アジェラはあなたたちを探しています」

静かな声に、下を向いた。大体言われることを理解して、瞳を伏せる。

「それに加え、主様のお傍に居るという事実は、確実にアジェラに目をつけられる要因になり得ます。死すら生ぬるい程の恐怖と絶望をもって、奴らは笑顔で心を壊してくる。正直、あなたたちがあれに耐えられるとは思えません」

「……なにを、言いたいの?」

「……ここに残りなさい。そして、普通の人として生きなさい」

幸いにもここにはあなたたちの居場所が出来上がりつつある。それに甘んじて、龍の遺産として生きることをやめ、普通の人に戻りなさい。

「……まだ引き返せます」

静かに告げたイーズ様に、ボクは目を開き、「嫌」と一言。シンクも、「僕もやだ」と腕を組んで唇を尖らせる。

「……辛いことが多いのはわかるはずですが?」

「それでも、ボクはこの道を選んだ。今更選んだ道はかえない。かえたくない」

「僕は主様たちと一緒にいたい。そのためならどんなことでもやる」

真剣に、イーズ様を見つめた。嘘偽りは含んでいないと、じっと視線を向けるボクたちに、イーズ様は嘆息。「呆れて物も言えませんね」と吐き捨てる。

「あなたたちが幸せに暮らすためなんですよ?」

「主様たちと一緒がいい」

「リレイヌたちのそばに居たい」

「子供か」

む、と顔をしかめた。本音だもんとそっぽを向けば、イーズ様は少し黙った後、「本当に後悔はないんですね?」と問いかけてくる。

「龍の遺産として生きることを選び、人の生活と命を捨てる。そうして神族に成り上がり、世界を見続ける覚悟が、あるんですね?」

「「ある」」

「わかりました。ではこれから、さらに厳しくあなたたちを鍛えます。またこのような事がないように、主様の補佐として、護衛として、神族として、育てます。多くのことを覚えなくてはいけません。誰よりも強く在らねばなりません。知識と教養を身につけなければなりません。言葉の扱い方と生物の操り方を学ばなければなりません。あなたたちは人ではなく、我々と同じ神族であるのだということを、身をもって理解していただきましょう」

「「はい」」と力強く頷いた。それに、イーズ様は困ったように笑うと、視線を師匠へ。「2人を部屋へ」と指示を出す。

「え、やだ。まだここにいる」

「そうだよ。リレイヌのこと心配だし」

「睡眠中の女性の部屋にいるのは紳士としてどうなんですかね」

「とか言ってイーズ様ここにいる気じゃん」

「そうだよ。一人だけずるい」

「僕は信頼されてますので」

さらりと告げたイーズ様にまあ否定は出来ないと思考。されど不満だと頬を膨らませば、師匠から「まあまあ」と肩を叩かれる。

「ここは大人しくイーズの言葉に従おう。ほら、立って。部屋に行くよ」

「でも……」

「主様なら大丈夫。それに、彼女も呼んだしな」

彼女?、とシンクと2人首を傾げた。すぐわかると笑う師匠にモヤモヤしながら、ボクたちは師匠に連れられ教団内の部屋へと移動させられるのであった。
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