アビス
□神族
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キッチリとした正装に身を包む。
組織在住の仕立て屋姉妹からあれやこれやと着せられ最終的に決まったのは、白と青をベースとした衣装だった。シンクは白と緑をベースにした衣装らしく、顔には黄色い、鳥のような仮面をつけている。
「お似合いです、ミトス様。シンク様」
「これならば神族として問題ないと思われます」
にこやかな姉妹にげんなりとしながら「ありがとうございます……」と一言。やって来たリレイヌとイーズ様、師匠を見て、目を瞬く。
3人とも、所謂正装に身を包んでいた。リレイヌは青を基調とした着物に、イーズ様は白と黒を基調とした、師匠は真っ白な衣装に身を包んでいる。
元より顔がいい彼らだ。その美しい姿に思わず見惚れていれば、「準備は出来たかい?」と声をかけられ慌てて頷く。
「主様。相変わらずお美しい……」
「イーズ様もオルラッド様も、相変わらず凛々しい……」
「「また衣装を仕立てたい……」」
「はは、また今度ね。さ、衣装選びでお疲れのところ悪いが、早速行くよ。大体の作法は理解してるね?」
確認するように問われ、シンクと2人こくりと頷く。
「OK。向こうにいる私の協力者と潜り込ませたレヴェイユ幹部には既に連絡を入れてある。上手く合わせるよう言ってあるので、失敗してもフォローしてくれるだろうさ。と、いうわけで気張らず行こう」
やわく笑む彼女が踵を返す。背後で「行ってらっしゃいませ」と揃う2人の声に軽く頭を下げ、急いで先いくリレイヌたちを追いかけた。
「ラディル、留守は任せた。なにかあればすぐに連絡しろ」
「かしこまりました」
ゆるく頭を下げ見送ってくれるラディルさんに、メーラはいないんだ、と思っていれば「拗ねて自室にこもってますよ」と影から声。着いてきてくれているアルベルトのそれになるほどね、と頷いたと同時、光に包まれ景色が変わる。
場所は、どこかの教会のようだった。
高い天井と集合する、騎士団員のような者たち。丁度集会かなにかをしていたのだろう。ボクたちの登場に周囲が波のようにザワめいた。壇上に立っているイオンも、驚愕した顔でこちらを見ている。
「無礼を承知でお邪魔するよ」
ズカズカと無遠慮に屋内に踏み込み、人々の前で足を止めるリレイヌ。その足が止まると同時、片手を拳に、片手を開いてそれらを合わせて膝を折った。イーズ様も、師匠も、シンクも、同様に頭を下げている。
「この度はローレライ教団最高指導者、導師イオンのご生誕を祝し我らから祝福を授けよう。金、銀、宝石、その他諸々……受け取るがいい、教団員よ」
パチンッと彼女が指を鳴らすと同時、彼女が口にした祝福が出現した。ドサドサとどこからともなく現れたそれらに、動揺が広がっている。
「……さて、アポもなしに大変大事な行事に踏み込んだこと、まず謝罪させていただこう。しかし、教団の最高指導者と団員、王族が集まる機会など、そうないだろう? 我々も時間が無くてな。君たちとまとめて話す貴重な時間がほしかったわけだ」
「……な、なにをしている! 今は大事な式典であるぞ!! 即刻侵入者を!!」
「お言葉ですが、大詠師モース。我らが神に仇なすということは世界の滅亡を意味すると言っても過言ではない。ここは大人しく話を聞いてはいかがかと」
「アドロイ! 貴様なにを言って……!」
「わかんねえか? 黙ってろ豚って言ったんだよ」
冷たく吐き捨てたのは金髪の男だった。ゆったりとしたローブに身を包む彼は、控えていた壇上から降りるとリレイヌの前へ。片膝をつき、頭を下げる。
「我らが主君、セラフィーユ様。このような腐れた地によくぞ足を運んでくれました。あなた様には大変申し訳ないのですが、この地の輩は無能で、無知で、使えない者ばかり。セラフィーユ様自らがお越しになってくださったというのに、頭すら下げないとは……」
愚かしいにも程がある。
そう告げた男に「構わないさ」と朗らかに告げたリレイヌは、「さて……」とゆるく周りを見回す。いきなりの展開に着いていけない者たちが言葉をなくしリレイヌを見る中、彼女は視線をイオンへ。「導師イオン」とゆったりとその名を呼ぶ。
「知っておられますか? 始祖ユリアが残した預言。その最後に記された文面を。重要な記述を。知らないならば教えましょう。私自らが、ええ、彼女の残した預言を語りましょう」
そうして彼女は紡ぐ。歌うように、哀れむように。
それはこの世界に記された、重要な預言の一部だ。