アビス

□プロローグ
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「──がっ!!!」

ドゴォンッ!!!、と凄まじい音をたてて屋敷の壁に叩きつけられた。背中を強打したことにより思わずいてて、と顔を歪めれば、「終わりか?」と飛んでくる静かな声。赤い髪を揺らす剣の師を、ギッと睨んで地に手を着いて立ち上がる。

聖地カルナーダ。
そう呼ばれる神秘的な街にやって来てかれこれ三年。教育と戦闘訓練に日々を費やすボクは、お陰様というかだいぶこの世界に慣れてきた。
最初は魔法だ魔導だと特殊な力に戸惑っていたりもしたが、どうやらボクにはそれらを扱う才能があるらしく、事細かにいろいろ叩き込まれ、今ではある程度扱えるように。屋敷の人達ともそれなりに仲良くなり、充実した日々を送っている。

「……師匠は超人って呼ばれてるけどまさに超人だよね……」

ボロボロになりながら足首を掴まれ逆さまになった状態で小さくボヤけば、「そんなことはないさ」と苦笑された。「俺はまだまだ弱い。強いというのは皆の幻想だよ」と告げる彼に嘘つけ、と思っていれば、「それに、本当に強ければとっくの昔に主様を救えているはずだ」とパッと足を離される。すぐさま地面に手を付き地に足をつければ、「君は強くなるんだろう?」と優しく問われた。それにこくりと頷けば、安心したように笑われる。

「オルラッド、ミトス」

と、そこにかかる声。師匠と同時に振り返れば、師匠と同じ管理者の立ち位置にいるイーズ様が視界にうつった。無表情な彼は「主様がお呼びです。早急に出で立ちを正し執務室へ」と告げるとさっさとこの場からいなくなる。

「主様がお呼び?」

「なにかやらかしたのかな……」

不安を抱きながら、イーズ様の言った通り出で立ちを正してから2人並んでリレイヌの執務室へ。ノックしてそこに入れば、リオルともう一人、やけにくたびれた衣服をまとう、緑色の髪の少年がいることが確認出来る。
誰だろうか……。
思考しながら、「いきなりすまないね」と謝ったリレイヌに目を向けた。

「訓練中だったんだろう? 邪魔して悪い」

「いえ、丁度一区切りついたところでしたので……それはそうと、なぜ俺たちは呼び出されたのでしょう?」

「ああ、その件なんだが、龍の遺産が見つかってね。詳しいことはリオルから……」

龍の遺産?、と目を瞬けば、共にリオルが「この子が突然組織内に現れてな」と一言。「調べてみたら龍の遺産であることがわかった」と淡々と告げる。

「元いた世界で複製……いわばレプリカとして生み出された人間のようだ。数値が規定に達していなかったことにより火山に投げ捨てられ処分されたところで、こちらにやって来たわけだな」

「火山に投げ捨てられ、って……」

ゾッとした。そんな人間がいるだなんて、と。

「俺は子守りとか無理だからよ、同じ遺産であるミトスに託そうって考えたわけだ。が、しかし、ミトスもまだ教育段階。世話係はイーズに任せるから、お前にはこの子の兄替わりになってもらいたい」

「兄替わりって……」

「悪い話じゃないと思うぜ? 信頼出来る兄弟弟子がいりゃあお前もちったあ軽いだろ?」

「……」

ボクは子供の傍へ。「名前は?」と問えば、子供は純粋な眼差しをこちらに向け、口を開く。

「シンク」

はっきり告げられたそれに、ボクはこくりと頷き、自らも名乗った。


新たな物語が動き出す。
歪に、確かに、残酷に……。
 

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