NARUTO

□はじまり
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「……うぁー」

バッサバッサと書類をさばきつつ、私はそんな鳴き声を上げていた。やってもやっても終わらない仕事に、そろそろ脳は限界を訴えている。

「何て声出してるの」

呆れたようにミトスが言う。今日も今日とでこってりとオルラッドに絞られた様子の彼の肌には、幾つもの生々しい傷が作られていた。
打撲に火傷に汚れた切り傷。一体どういう修行をすればこんなことになるのだろうかと、疑問を抱きながらも彼を手招き傷を癒した。

ミトスたちが選定者となって早くも三ヶ月。世界は変わりなく回っていた。式典の影響もあり、見事に名が広まった彼らは、最近は勉強も兼ねて外交に付き合わせていたりする。最初こそ戸惑っていたが、そこはさすがの精神力。3人ともきちんと外交に順応しだし、一人立ちも早そうだった。

「……それにしても、今日はまた随分な仕事量だね」

「いろいろあるんだよ、こちらも。世界は今混乱期にあるらしいし、君たちのような存在も探さねばならないし……というか怪我くらい自分で治せるだろ。なぜ治さないんだね」

「リレイヌと話す口実がなくなるから」

「……はい、終わり」

「ん、ありがと」

傷の消えた掌を動かし、動作を確認。問題はなかったようで、「相変わらず凄い回復力……」と呟いた彼は、話の続きを求めんと「それで?」と首を傾げた。

「最後の遺産はいた?」

「今のところ情報はゼロだな」

「へえ、残念。シンクたちはすぐに見つかったのに、やっぱり基本的には発見が難しいんだね、遺産って」

本当にそう思っているのか、肩を落とすように息を吐いたミトス。自分たちと同じ存在が揃うのを願っているのだろう。「はやく見つかるといいな」なんてぼやいている。

──龍の遺産。
それは、管理者として見定められ、しかし管理者にはなれなかった者たちのことを指し示す言葉である。
彼らはイヴ化した龍神──つまり死んでしまったセラフィーユたちが遺していった希望ということで『遺産』などという呼び方をされているが、私はその呼び方が好きではない。彼らには彼らの人生がある。あまり龍神というものに縛られてほしくはないのだ。
まあ、無理な話だとは思うけれども……。

「珍しいな。ミトスが他者に興味を持つとは……」

読み終えた書類にサインを記し、判を押す。それを束の上へと重ねれば、同じくして彼は頷く。ひどく曖昧な言葉と共に。

「んー、まあ、そうだね。自分と同じ、ある種の可能性。それがどんな人なのかは、できれば全員見てみたいし揃って欲しいなぁ、と思ったりはするかな。だからって仲良くしたいとは微塵も思わないけれど……」

ミトスらしいと言えばらしい、そんな考え方である。

そこまで興味を持つのであればもういっそ仲良くしてやれ。

苦笑してやれば、同じくして聞こえてきたノック音。一体誰だと入室を促せば、待ってましたとばかりに部屋の扉が開かれた。

「いよーっす! リレイヌ! 久しぶりぃー!」

そんな悠長極まりない挨拶を口に、室内に足を踏み込んできたのは一人の男であった。
病的な程に白い肌と、色素の抜けた髪と瞳。栗色と紫紺が絶妙なバランスを織り成す色合いに、ミトスは目を瞬いている。

「あれ? リオルじゃん。何してるの? 外交は?」

「終わった。シンクたちもいるぞ」

そんな言葉と共に開かれっぱなしの扉からリオンが現れた。げんなりとした顔の彼は、「この楽観バカどうにかならんのか……」とボヤいてある。外交先で何かあったのだろうか……。

「……君またやらかしたのか?」

「またってなによ。ってかやらかしてないし。それに、今日はだーいじな話があって来たのよ。とゆーわけでそうグチグチ言わずに聞いてくれ。これ結構、てか、かなり重要なお話だしな」

「重要な話であれば扉を閉めるくらいはしていただけませんかね?」

パタン、と軽い音をたて、開かれっぱなしの扉が閉ざされた。見ればそこには、無表情の青年──我が補佐官のイーズとシンクが佇んでいるではないか。シンクの腕には預かりものであろう。3つほどの巻物が持たれている。

「おっと、わりぃな、イーズ」

リオルはにこりと笑い、そのまま来客用のソファーへ。偉そうにふんぞり返ると、「外交先でこの巻物を渡されてな」と、シンクが持つ巻物を指さした。

「なんでも超超ちょーう貴重な品のようだ。ぜひ主様に献上してくれと言っていた」

「それが大事な話なわけ?」

「おう。実はな、この巻物。調べたところ四代目の力が含まれていることに気づいた」

ミトスが驚く。人数分のお茶を用意していた彼は、危うくカップの中身を満たしかけ、慌ててポットの位置を正した。

「……師匠の力ねぇ」

「ああ。んで、問題の中身なんだがよ。見りゃわかんだが、お前にしか読めない文字になっててな」

「私たちの扱う言語ということか」

シンクより渡された巻物を受け取り、紐を解いて中身を確認。ミミズが這ったような文字を見て、暫くそれらと向き合う。
数秒後、思わず眉をしかめた私に、「なんて書いてある?」とリオルは問うた。

「……要約すると、一つの世界が異常をきたし、蓋をして隠したと。その世界を開けて、正常なものに戻してほしいそうだ。しかも師匠……イヴはこの世界を破壊しようとしているようで、さらには弾かれ者が数名いるんだとか……」

「それだけか?」

「……その世界には龍の墓が眠っているらしい」

ピクリと反応したのは、リオルとイーズの2人だった。
他は訳が分からないとこちらを見ている。

「……龍の墓ね。探しても見つからないのはそういうことだったか……」

「重要な場所なのか?」

「一言で言やぁ神域だ。聖地や青雲の城みたいにな。無くすには惜しい場所だよ」

神域はそれ自体が癒しの効果を持つ。現存する神にとっては必要不可欠な場所なのだ。

「あー、そっか。神族にとって人の世は生きづらいもんね」

「そういうこと」

頷いたリオルに、「じゃあどうするんだ?」とリオン。リオルは「確保するに越したことはないけどなぁ」と頭をかく。

「生憎とレヴェイユの人員はあんまり割けないし……」

「我々で動くか? 幸にも墓の場所は記されている──というか多分転移用の巻物があるからこれを使えばそこまで行くことは可能だ。世界の大きさによっては破壊されては困るし、一度確認はした方がいいだろう」

「だなぁ」

よし、とリオルは頷き、手を叩いた。皆の視線が、自然と彼に集められる。

「選定者諸君、初仕事だ。管理者と共にリレイヌのサポートを。件の世界の確認を急げ。場合によっては長期の任務となる。心せよ」

「「「はっ」」」

「リレイヌ。悪いがそっちは任せた。人員が必要な時は連絡を。すぐに手配しよう」

「ああ」

頷いた私は、視線を再び巻物へ。
小さく息を吐き出し、顔を上げた。
 

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