幽遊白書
□餌やりは程々に
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正直なところ、中嶋の申し出はありがたいものだった。しかしなぜだろう。こうも胸がもやもやするのは……。
あの日から、特に関わることもない俺たち。中嶋は相変わらず不真面目で、度々授業をサボってはたまに戻ってくる。教師に怒られようが、素知らぬ顔で気にした様子も見せない。そんな中嶋に呆れているのか、教師も特に言及はしない。言っても無駄。そう思っているのだろうか。
「――ここの英文では……」
英語の授業中。二つ前の席に座る彼女は、どこかぼんやりと外の景色に目を向けていた。心ここに在らず、とはこのことだろう。教師の声はきっと聞こえていない。
――何を考えているんだろう。
らしくも無く、そんなことを思う。
あの日、「関わりたくない」とハッキリ言われた時、少なからずショックを受けている自分がいた。そんな自分がいることに、自分自身で驚いた。
何も言えぬままに立ち去る中嶋。そんな彼女を見つめるだけの俺。振り返った際に見せたあの笑みは、今でも脳裏に強く焼き付いており、拭おうとしても拭えない。
――一体なんだというんだ。
自分自身が、理解できない。
「じゃー、ここの英文を……中嶋、訳してくれ」
「……はい」
一拍の間を置き、中嶋は立ち上がった。彼女が授業に身を置いてないことなど周知の事実らしく、中嶋の失敗する様を想像してかクスクスと笑う者がいる。
「彼は彼女に追いつくことはできず、いつしか追いかけることをやめました。彼女はそんな彼をただ振り返る。その歩みは止めぬままに」
「うむ!完璧だ!」
教師が笑んだ。クラスの者達は面白くない、と言ったふうにグチグチと言っている。