幽遊白書
□事は静かに動き出す
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――一体、何が起きているんだ……
巨大な三途の川が流れる霊界。見上げるほどに高い建築物の中、その霊界の長は険しい顔つきで外を眺めている。視線の先には霊界とは思えぬ程、赤く染まり果てた空。流れる雲は黒く、まるで毒のようだ。時節地鳴りとともに響き渡る雷鳴は大きく、この霊界に轟いていた。
異常気象といっても過言ではないこの状況。長――コエンマはグッと眉間にシワを寄せる。
「こ、コエンマ様ー!」
「なんだジョルジュ」
情けない程の焦り声。振り向いた先にいた一匹の青鬼を見れば、その額に大量の冷や汗を浮かべているのがわかる。
「さ、三途の川が!三途の川が赤く――」
なに!?、と目を見張ったその直後、恐ろしい咆哮がコエンマの鼓膜を、建物を、大地を揺らした。慌てて窓の外へと視線を戻したコエンマは、その顔に初めて『恐怖』を浮かべる。
――それは、ひどく巨大な龍だった。
漆黒の体は恐ろしくも美しく、胴はとてつもなく長い。まるで蛇のような姿形のそれは、再び巨大な咆哮をあげながら空を駆ける。かと思いきや、突如として急降下を始めた。力を失ったように落ちいくその体は、赤く染まった三途の川の中に大きな水飛沫をあげながら呑み込まれる。
「な、なにが、起こっているんだ……?」
心の底からの疑問だった。
呆然と立ちすくむコエンマ。空や川が元の色に戻っても尚、しばらくの間、彼は動けないでいた。
――なにか、とんでもない事が起きている……。
大きな胸騒ぎが彼を襲う。しかし、事態をどうこうできる術を、今の彼は持ち合わせてはいなかった……。