戦国BASARA

□それからの日々
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ゆらりゆらり。窓の外で木々が揺れる。
その景色をぼんやりと見つめてから手元の書物に目を下ろし、小さな息を一つ吐いた。そうして積まれた本の中心でずるずると倒れていけば、自然と体は仰向けに。手にした書物を顔の前に持ってきてから、パタンと閉じる。

私が今いるのは書庫だ。多くの書籍がぎっしりと幾多もある棚に詰められているそこは、言ってしまえばこの世界の知識が散らばった部屋である。
そんな部屋の隅っこで黙々と本を読んでいた私は、全くもって見つからない帰還方法に既にうんざり。世界に蓋をされているのか、この世界から出るに出られぬ状況に、どうすればいいんだと投げやりに思考を回し、それを放棄する。

なんだか考えるのが面倒になってきた……。

本を顔に乗せて目を瞑る。

「……主様、寝るなら部屋にお戻りください。というかここ数日書庫にこもりっぱな。食事もろくに食べていないのは守護役として放ってはおけません。せめてなにか口に入れてください」

「……お腹すいてない」

「イーズ様にチクリますよ」

それは困るなと、本を退けて上体を起こす。
と、私が起き上がると同時にスパンッと書庫に繋がる戸が開かれた。何事かとそちらを見れば、薄い紫色の着物に身を包み、白い羽織を羽織った男がそこにいる。ぬいぐるみ化したパティを肩に乗せた彼は、その場に座り込む私を見て嘆息。「またここに居たのか」と一言紡ぐ。

「え? ああ……なにか用かい?」

「なにか用かい? 、じゃない。君は全く、ここ数日この部屋にこもりっぱな。いい加減外の空気を吸うということを覚えたらどうだい? 食事もろくに食べていないこと、知っているんだよ」

「支障はないからなぁ」

「大ありだ」

男はズカズカと室内に踏み込んでくると、私の脇に手を差し込み持ち上げる。「かるっ」と聞こえた声にジトリとした睨みを向ければ、「そんな顔しても怖くないよ」と吐き捨てられ、そのままずるずると引きずられつつ部屋を退室。私の自室まで運ばれ、どこから持ってきたのかもわからない、あたたかな食事を提供される。

「ほら、食べるんだ。残すのは許さないよ」

「おかんか」

「なんだい? なにか文句でも?」

「いーえ、別に」

答えつつ、両手を合わせていただきます。キョトンと不思議そうにされたので「食材に感謝してるの」と告げて箸を持つ。

「……というか、食事出来てるなら君たちも食べればいいじゃないか」

「僕たちは後から頂くからいいんだよ。問題は君だ。いつもいつも不健康な生活をして……これが世界最高神だなんて信じ難いよ」

「なら信じなければよかろう」

「そうもいかないんでね。ほら、話してないでちゃんと食べる」

まるで母のような彼にチッと舌を打ち、箸を動かし食事を口へ。もくもくと口内に含んだ米やらおかずやらを噛み砕き、飲み込み、また噛み砕きを繰り返す。
大人しく食事をとっているからだろう。男は何も言わずに、満足そうな顔をした。

「……ところで半ちゃん」

「半兵衛だ。なにか?」

「ああいや、地上のことを知りたくてな。君がまだ上にいる時、なにか変わったことは起こらなかったかい?」

「変わったこと? ふむ、そうだな……」

一つ考えた半ちゃんこと半兵衛は、「ああ」と何かを思い出したのか口を開く。

「天女が落ちてきたとかなんとか……」

「「「天女?」」」

アルベルトとパティと三人、声を合わせて疑問を発せば、半兵衛はコクリと頷き詳細を口にする。

曰く、ある日突然、天から女が降ってきたらしい。その女は現代では見たことも無い服装をしていて、やたらと可憐なのだとか。

現在は奥州にいるらしいその女は、声を大にして言っているそうだ。「戦はやめろ」と。
争ったところでなにも生みはしない。その先にあるのは絶望だけだと、宣っているらしい。

「僕も遠目からしか見たことは無いんだが、一般的に見て美しい部類に入る人間であることは確かだ。まあ、君に比べれば天と地ほどの差があるがね」

「当然です! 主様はどんな者よりも美しく可憐なのですから!」

「話を逸らさない」

はしゃぐパティを咎め、「で?」と半兵衛を見る。

「半ちゃんがその女を人間だと断言する理由は?」

「半兵衛だ。……君に会って、神気というものに触れた。それでわかったんだ、あれはただの人間だと。正直、君に会うまでは僕もあれを天からの使いだと思っていたんだ。あの声を聞き、天の言葉に従わねばと。だが、今となっては不快でしかない。あの声も、姿も、不快だ……」

「ふむ……洗脳が解けた、といったところかな」

頷き告げて、味噌汁を飲む。程よい味かげんに舌鼓を打てば、半兵衛は首を傾げた。「洗脳?」と。私は静かに頷く。

「稀にあるんだ。天女と名乗る女が男共を支配して世界を壊すというシナリオ……あー、物語が。天女は男どもにチヤホヤされながら生涯を終え、男共は天女が居なくなったことにより狂って死ぬ。……謂わば洗脳だよ。天女なしでは生きられない体にされるんだ。皆、いつの間にか、ね」

「……洗脳を解くには?」

「神気に触れればいい。早い話神社などに参っておけばそう簡単には洗脳にかからんだろ」

「なるほど。僕が無事なのは君という神の神気に触れたからか」

「そうなるな」

「ふむ……」

少しの間なにかを考えた半兵衛は、やがて「リレイヌ」と私を見る。目を向ければ、「お願いがあるんだ」と彼は言った。

「未来ある者を、救ってくれないか?」

問われたそれは、きっとそう、私がここに連れてこられた理由に深く関わる事柄なのだろう。

私はごくりと芋の煮付けを飲み込み、1拍。「詳しく聞こう」と彼を見た。
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