忍たま乱太郎

□医療
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「姉ちゃん! 今日は俺も仕事手伝うからな!」

「わかったからご飯を食べてしまいなさい」

翌日早朝。
せかせかと薬の準備を行う私に、朝食を食べながらきり丸は言った。注意すればがつがつと米を口の中に放り込み飲み込んだ彼は、すぐに食器を片付けて皿洗い。バタバタと慌ただしく戻ってくる。

「洗い物はやったのに……」

「姉ちゃんばっかにやらせられないって! 薬箱は? 重いし俺持つよ」

「これくらい持てるし大丈夫。きり丸はそっちの袋持ってくれるかい?」

「これ? わかった」

よいしょっと紫色の袋を持ち上げたきり丸は、「これなに?」と私を見る。私はそれに、「毒草」と一言。

「え、なんで毒草?」

「毒も時には薬になるんだよ。配分を間違えなければ立派な薬草さ」

「へー」

頷いたきり丸に微笑み、大きな薬箱を背負って家の外へでる。そしてきちんと戸締りをし、役場へ。
町の人達に挨拶をしながらゆったり向かう。

そう。私はこの世界で薬売り──一部の者には医者として名を通らせながら生活していた。室町というかなり古い時代のこの世界、医者というのは希少な存在であり、そして同時に価値がある。
リーズナブルな値段で診療と薬の販売を行う私に、すぐに患者は殺到した。しかも病が治るのだから噂は広まり、今では遠方からの客も少なくはない。常連にお偉いさんだっている始末だ。

稼げるのはありがたいし、このまま診療所でも持つべきかな、なんて考えていたら役場へ到着。既に待機列ができていることに苦笑を漏らしながら、「お一人ずつお願いします」と役場の中へ。入ってきた患者を診察する。

「軽い骨折ですね。固定しときますので無理に動かさないようにしてください。くれぐれも安静に、ですよ」

「熱が出てますね。解熱剤を出しましょう。なに、3日ほどで治りますよ」

「破傷風かなぁ。薬と包帯出しときますので定期的に傷口に塗るように。飲み薬も出すので一日三回お願いします」

テキパキと診察を続け、「はい、次」と一言。戸を開け入ってきた人物を見て、きり丸が「あれ?」と反応を示す。

「善法寺伊作先輩!」

「え、きり丸!?」

患者ときり丸が驚きあう。私はこそりと「知り合い?」と問うてみた。

「うん。忍術学園の先輩。六年生」

へえ、と頷き、きり丸を見てキョトンとしている少年に着席を促す。少年はハッと慌てながら私の前に腰を下ろした。

「今日はどうしました?」

「あ、えっと、腕利きの薬売りがいると聞いて、薬を買いに……き、きり丸はなぜここに? バイトかなにかかい?」

「姉ちゃんの手伝いです」

「姉ちゃん……ええ!? 姉ちゃん!?」

少年が後ずさる。きり丸はすました顔で「そうです。俺の姉ちゃんです」と私を示した。

「え、あ、に、似てないね……」

「血は繋がってないんで。てか姉ちゃんに似たら俺絶世の美少年になりますよ。そうなったら顔だけで金儲けするのに……」

「おや、きり丸。それは暗に私が顔だけで金儲けできると言っているのかな?」

「え!? だ、だめ! むり! そんなことしなくても姉ちゃんは薬売りで生計立ててんじゃん! 顔売る仕事とか俺認めないからな!」

「わかってるよ。冗談さ」

クスクス笑い、薬箱を開く。そうして幾つかの薬を取りだし、それをほへー、と固まる少年の前へ。効能を伝えながら、薬の説明をしていく。

「──で、これが解毒薬。あとはまだ薬にしてない薬草や毒草が幾つか……どれがいるんだい?」

「は、はいっ! えっと、傷薬と薬草を少し……」

少年が告げた瞬間、役場の戸が音を立てて開かれた。何事かとそちらを見れば、大怪我をした男が町の者に支えられるように立っている。

「先生! 大変だ! 怪我人が──!!!」

「中へ。きり丸、水と布、あとマッチを用意してくれ」

「うん」

パタパタと駆けていくきり丸を横目、少年に少し待つよう伝えて怪我人の元へ。役場の中に敷かれた布団に寝かされた彼の傍により、とりあえず脈を測って生きていることを確認。大丈夫かな、と思考し、きり丸が運んできてくれた水と布を傍らに設置。マッチに火をつけ箱から取り出した針を炙り、軽く消毒してから糸を通す。

「きり丸」

「麻酔?」

「うん」

「はい」

手渡された茶色い瓶。
蓋を開けてその中身を指で掬い、傷の周りに液を塗る。そうして液が肌に染み込んだ所で先程の針を使って傷口を縫った。軽く十針越えたそれを水で濡らした布で拭い、最後に傷薬を上から塗って終了だ。

「ひとまず応急処置はしましたので様子を見ましょう」

「ありがとうございます、先生」

「仕事なので。きり丸、飲み薬飲ませといてもらえるかい? 私は次の診察をするから──」

「すごいっ!!!!」

突如発された大声にビクリと震える。なんだなんだと振り返れば、先程の少年が感激に震えながらそこにいた。
目を輝かせ、頬を赤らめ、興奮したように「すごい、すごいっ」と繰り返す姿は年相応である。

「あのあのあの! その医術どこで学んだんですか!? 僕もあなたみたいにできますか!? 弟子はとってますか!? 弟子にしてください!!!!!」

ずずい、と寄ってくる少年を、きり丸がタックルと共に引き剥がした。そして、「姉ちゃんに寄らないでください!」と先輩であろう彼を威嚇する。
少年はそんなきり丸にハッとしたのか、顔を真っ赤にしながら慌てた様子で私から距離をとった。

「……君、医療に興味が?」

「あ、へ、はい! ぼ、僕、保健委員で!」

「保健委員……」

そんなことだけで医療に興味持つんだ、となんとなく感心しながら、少年を手招く。少年は恐る恐るとこちらへ。きり丸が威嚇する姿に苦笑しながら、改めてと言いたげにその場に座る。

「……すまないが、私は弟子はとらない」

「あ、はぃ……」

「……だから、見て学びなさい。人の技術を盗むのも、立派な勉強だ」

「は、はいっ!」

少年が輝かんばかりに頷く。
私はそんな彼に、ただ微笑んだ。
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