シンフォニア
□森の中
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「そこで問いたい」
微かに強くなったタイガさんの声色に、自然と皆の背筋が伸びる。
年齢を重ね、人生を重ねたタイガさんの重みのある視線が真っ直ぐに、ロイドさんへと向けられた。
「シルヴァラントの民よ。おぬしらは敵地テセアラで何をするというのか?」
「俺もずっとそれを考えてた。ある人に、テセアラまで来て何をしているのかって聞かれて、俺はどうしたいのかって」
言って、ロイドさんは膝に置いた拳を握り締めた。ある人、とはおそらくクラトスさんの事だろう。
ロイドさんは言葉を探すように静かに目を伏せたが、ややあって顔を上げた。
「俺は、皆が幸せに暮らせる世界があればいいなって思う。誰かが生贄にならなきゃいけなかったり、誰かが差別されたり、誰かが犠牲になったり」
ロイドさんの鳶色の目が、しっかりとタイガさんを捉える。
「そんなのは、嫌だ」
強く拳を握りしめるロイドさんを見て、タイガさんは鼻を鳴らした。
「お主は理想論者だな。テセアラとシルヴァラントは互いを犠牲にして繁栄する世界だ。その仕組みが変わらぬ限り何を言っても詭弁になろう」
「だったら仕組みを変えればいい!」
タイガさんの言葉に、ロイドさんは勢いよく立ち上がった。
「この世界はユグドラシルってヤツが作ったんだろ! 人やエルフに作られたものなら、俺達の手で変えられるはずだ!」
真っ直ぐな、よく通る声が辺りに響く。
「ふははは! まるで英雄ミトスだな」
一拍おいて声を上げ、大口を上げてタイガさんが笑う。
だが彼もこの状況を心から楽しんでいないのだという事は、その目の色を見れば明らかだった。
「けして相容れなかった二つの国に、共に生きていく方法があるとさとし、古代大戦を終結させた気高き理想論主義者。お主はミトスのようになれるというのか?」
試すような、腹のうちを探るような、絡みつくような視線がロイドさんを貫く。
だがロイドさんは逃げることなく、正面からそれを受け止めた。
「俺はミトスじゃない。俺は俺のやり方で仲間と一緒に二つの世界を救いたいんだ」
「……なるほどな。古いやり方にはこだわらないという事か」
長い溜息と共に、タイガさんはゆっくりと目を瞑った。
長いような、短いような沈黙の後。
しっかりと言葉を噛みしめるようにして頷いたタイガさんは、晴れ晴れしい笑みを浮かべていた。
「では我らも新たな道を模索しよう」
「副頭領、まさか……!」
「うむ。我らは我らの情報網でおぬしらに仕えよう」
立ち上がったしいなさんに、タイガさんはしっかりと頷く。
これから先、ミズホの情報網があれば心強い。皆が安堵の息を零した。
「そのかわり、二つの世界が共に繁栄するその道筋が出来上がった時、我らは我らのすみかをシルヴァラントに要求する」
「要求するっていっても、俺に決定権があるわけじゃ……」
その条件にロイドさんは微かに眉間に皺を寄せ、それを見たタイガさんは小さく笑った。
「なに。我らミズホの小さな引っ越しを、おぬしらが手伝えばそれでいいのだ」
ミズホの里というのは、見る限りではどんな町よりも小さい。
この規模なら、移住するにも左程手間はかからないだろう。
「……みんな、いいか? ミズホの民と組んでも」
ロイドさんの伺いを立てる言葉に、真っ先に頷いたのはコレットさんだった。
「それで、二つの世界の関係が変わるなら」
「まあ悪い取引ではないわね」
「さっさと話しをまとめてプレセアを助けてあげようよ。リレイヌも帰してあげなくちゃだし……」
それに続いて、リフィルさんとジーニアスくんも頷く。
最も、ジーニアスくんは少々理由が違うようだったが。
「俺さまはテセアラが無事なら、あとはお前らの好きにすればいいと思うぜ」
ゼロスさんがいつもの飄々とした口調で答え、ロイドさんの鳶色が私たちを見つめた。
こちらの返事を待っているのだろう。
「私は帰りたいだけです……」
正直に告げれば、「あ、そうだよな……」と彼は苦笑。すぐ終わらせるからと、改めてタイガさんに向き直った。