シンフォニア

□森の中
2ページ/4ページ




「そうだな。ミトスの言う通りだ」

「でもよぉ、休息するっつったってどこでどう骨休めすんのよ。この近くで休める場所なんてどこにもないぜ?」

ゼロスさんの意見も尤もである。どうしたものかと一同首をかしげた時、しいなさんが手をあげた。仕方がないと言いたげな彼女は、「ミズホの里に案内するよ」と、踵を返し方向を転換。木々の中を目指し歩き始める。

「ミズホの里って……おいおい、いいのかよ。部外者は立ち入り禁止のはずだろ?」

「仕方ないだろ。時間もないし」

「でもよぉ……」

尚も食い下がるゼロスさんを放置し、皆はそそくさとしいなさんを追いかける。優先すべきことがなんなのか、彼らはよく理解しているもようだ。

「……なにかあっても知らねえぞ」

はぁ、と嘆息するゼロスさんの声を背に、未だ繋がれたままの手を一瞥。ちらりとミトスくんを見るも、彼は私の視線に気づくことなく、ただ前を向いて歩いていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


人一人が通れるくらいの細い道を進み、道なのかさえ疑いたくなる道を進む。
ミズホという村はテセアラの中でも異色とされ、こうして山奥に隠れ住んでいるのだという。

草をかき分けながら進み、見えてきたのは谷間で隠れるようにして立ち並んだ集落だった。その集落に近づいていくと、入口に立っていた男がこちらを向いて声を上げる。

「しいな! 外部のものを里に招き入れるとはどういう事だ!」

「おろちか。処罰は覚悟の上だからさ、副頭領に伝えてくれ。シルヴァラントの仲間を連れてきたって」

彼は友人か何かなのだろうか。
叱咤(しった)するおろちさんに動じることなく、しいなさんは仲間を示した。
その意味に気付いたのだろう。
おろちさんは吟味するかのように一同を見まわした。

「……貴公らが衰退世界シルヴァラントの人間か」

「俺様は違うけどな〜」

先ほどより幾分か低いおろちさんの声に、正反対に明るいゼロスさんの声が響く。その様子に、しいなさんは微かに溜息をついたようだった。
それはおろちさんも同じらしく微かに目を細めたが、何も言わずにしいなさんに向きなおった。

「……分かった。しいな、俺と共に来い。貴公らは頭領の家の前で待たれよ」

「すぐに戻るから、あんまり動くんじゃないよ」

言って、しいなさんはおろちさんと共に集落の中央にある家へと入って行った。あそこが頭領の家なのだろう。他と比べるとやけに立派な家屋だ。

「んで、リレイヌちゃんとそこのクソガキはいつまでそうやってるつもりなわけ?」

「へ?」

ふと話をフラれてゼロスさんを見れば、無言で手を示された。それにミトスくんと二人、揃って示された場所を見れば、そこには繋がれた手があるわけで……。

「あ、わあ!? ご、ごめんっ!!!」

飛び退くように手を離され、ついでとばかりに距離もとられてしまった。慌てふためくミトスくんに、ゼロスさんは「にしし」と笑っている。

「み、ミトス、羨ましい……っ!」

ジーニアスくんが顔を赤くし、絞り出すように声をあげた。そんな彼に「どうしたんだ、ジーニアス?」とロイドさんが不思議そうにしている。

「副頭領がお会いになるそうだ」

おろちさんの声が聞こえたのは、丁度その時だった。彼の表情は固く、一緒に建物に入っていった筈のしいなさんの姿は無い。中で待っているのだろうか。疑問を抱きつつ歩き出す。

おろちさんに案内されて、里の中心に立つ一軒の家の中へと入る一行。食事時だったのだろうか。玄関のすぐ傍の竈では、何かが煮えている臭いがした。

「シルヴァラントの旅人よ。入られよ」

奥から聞こえたのは、初老の男性の声だ。

「はい」

ロイドさんが返事をし、おろちさんが靴を脱いで家の奥に進んでいく。
履物を脱いで進むおろちさんに倣い、皆も靴を脱いで部屋の中へ。部屋の奥には黒髪に微かに白髪の混ざった男性と、その斜め後ろには固い表情のしいなさんが座っていた。

「お座り下さい」

おろちに言われ、部屋の正面に座る。私とミトスくんは、皆から離れた少し後ろに腰を下ろした。

「我らの頭領イガグリ老は病のため、この副頭領タイガがお相手つかまつる」

言ってにこやかに微かに頭を傾けたタイガさんに、皆は軽く頭を下げて返す。
が、一呼吸おいて顔を上げたタイガさんに先ほどの笑みは無かった。

「しいながお主らを殺せなんだ事によって、我らミズホの民はテセアラ王家とマーテル教会から追われる立場となった。これはご理解頂こう」

「そんな……本当なのか?」

そんな話は聞いた事がない。
驚く皆を前にして、しいなさんは小さく頷いた。

「追われてるって……大丈夫なの?」

国に追われるとは、かなり苦しい状況になる。それが元から孤立している地域ならなおさらだ。

「何とか、ね」

ジーニアスくんの問いに、しいなさんはぎこちなく笑った。
が、副頭領であるタイガさんが小さく咳ばらいすると、すぐにその顔を引きしめる。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ