幽遊白書
□サボり魔は天才
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花の高校生活。といっても、年齢的に花もクソもない。
かけたメガネのレンズ越し、ノートに綴ったばかりの教師の言葉を見返しながら、視線を窓の外へ。飽きてきたなと思い、パタンとノートの表紙を閉じて片手をあげる。
「先生、体調が悪いのでサボります」
我ながらふざけた言い訳だ。
しかし、この方が人も近寄らない。花の高校生活なんてクソ喰らえ。私は自由に生きたいのだ。
「おい!?セラフィーユ!?」と慌てる教師など露知らず、私は無言で教室を後に。授業中のためまだ人の少ない廊下に出て、そこから保健室――ではなく屋上へと向かう。今頃、教室はああまたか、などの声が溢れていることだろう。心の中でほくそ笑みながら、長いようで短い階段を上がった。
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「――お前さぁ、そのサボり癖どうなのよ」
青々とした空の下に広がる屋上。チャイムが鳴ってから数分でここへと辿りついたとある男子生徒に、私は読んでいた本から顔を上げながら小首を傾げる。
「どう、とは?」
「教師に目ぇつけられてるぞってこと。ほれ、昼食。購買のやつだけど……」
そう言って購買部の買い物袋を掲げたのは、同じクラスの海藤優。成績優秀な学生で、勉学においての順位は二位だ。聞くところに本まで出版しているとかなんとか……。
昨年のことだろうか。本屋でたまたま遭遇し、少し話してからというもの、彼は毎日、まるで私の保護者の如くこうして世話を焼いてくれる。良い人間、というよりはお人好しに近い部類だ。
まあ、特に困りもしないので別に良いのだが。私は。
差し出された袋を受け取り、中身を物色。そこにはコーヒー牛乳とおにぎり数個が詰め込まれていた。いずれも私の好きなものばかりである。いやはや、ありがたい。
「ありがとう海藤くん。お金……」
「いいって、こんくらい。好きでやってんだし」
「タダほど怖いものはない……」
「わかったわかった。じゃあその本今度貸してよ。俺、読んだことないやつみたいだし」
それならまあ良かろうと、快く与えられた条件に同意。慣れたように隣に座る彼と並びながら、静かな昼食をいただく。
「そういえばさ、お前この間の考査何点だった?」
「321点」
「その前は?」
「321点」
「小テスト」
「3点と2点と1点を往復中」
「……お前って頭いいのにやることバカだよな」
明らかに貶されたが褒められているということにしておこう。
手にしたおにぎりにかぶりつきながら海藤くんを見る。
「そういう海藤くんは何点だったんです?」
「俺?俺は487点」
「さすが学年二位」
「お前それ褒めてないだろ」
海藤くんから向けられるジト目にまさか、と肩をすくめる。これでも褒めてるつもりです。
「いい加減本気出したらどうだ?お前の頭なら成績トップ狙えるだろ。あの不動の一位を引きずりおろせ」
「いやです。私は卒業までこの点数で突き進むと決めているんです。海藤くんが、私が腹を抱えて大爆笑するような一発芸やってくれたら考えなくもないんですが……」
「嫌に決まってんだろ」
即答された。残念。
ちぇーっ、と唇を尖らせながら、おにぎりの最後の一口を食す。海藤くんはそんな私の隣で、新たに封を切った焼きそばパンに歯を立てた。
「……あ、そういえばお前の好きな作家の小説。なんか新刊出てたぞ。もう買ったのか?」
「え、ホントですか?帰り、本屋に寄らねば……」
「買ったら貸して。俺も読む」
「もちろんですオカン」
「誰がオカンだ」
冗談ですよと笑いつつ、コーヒー牛乳を飲む。空はひどく晴れやかであった。