シンフォニア

□怪我
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「──ミトスくんってなんでも出来ますよね」

すっかり体調が戻った数日後。私は元気にミトスくんに絡んでいた。
グツグツと煮込まれる鍋の中のシチュー。それを覗き込むように見ながら口を開けば、キッチンに立つ彼は「普通でしょ」と答えてみせた。ぐるり、とかき混ぜられたシチューが、香ばしい香りを放っている。

「普通ですかね? 頭も良いし、呑み込みも早い。おまけに料理まで……将来、良いお婿さんになるんじゃないですか?」

「やめてよ。柄でもない。というか、そういうリレイヌだってなんでも出来るじゃないか」

「私はほら、チートですから」

「それ自分で言うの?」

呆れた眼差しが突き刺さり、同時にため息まで吐き出される。そんなに変なことを言ったかと首をかしげれば、共にタバサさんがキッチン内へ。「リレイヌサん」と私を呼ぶ。

「お話中のトコロすみまセン。一緒に水汲みに行ってモラッテも大丈夫デスか?」

「あ、はい。もちろんです」

私がいればどんな魔物も寄ってこない。それを知っているからこその頼みだろうと、理解した私は即座に頷きミトスくんから距離をおいた。そして、タバサさんの元へ。彼女の持つバケツをひょい、と奪い取ってから、「行きましょうか」とやわく笑む。

「ミトスくん。お留守番頼みましたよ」

「はいはい。怪我しないようにね」

「わかってますよ」

それでは行ってきます、と外へ。タバサさんと二人、並んで川を目指して歩く。

「ミトスサんと、随分仲がヨロシいんですネ」

「ミトスくんが良い子なので。それに、話してると楽しいんですよ」

いろいろ忘れられて、と心の中で付け足した。
そんな私の思考に気づかぬタバサさんは、着いた川の辺りでバケツを受け取り水を汲む。綺麗な水は、都会では絶対に見れない透明度を保っている。

「リレイヌサんは、ミトスサんのことがお好きナンですか?」

水を汲み終え、来た道を戻るタバサさんの問いに、そうだなぁ、と視線を上へ。すぐに顔の位置を戻し、頷いてみせる。

「好きですよ。良いお友達です」

「そうですカ」

「はい」

頷いて、重そうなバケツを受け取ろうと手を上げた、直後、巨大な揺れがこの場を襲った。尋常でないその揺れに、魔物たちが騒ぎ出す。

「大きいですね……タバサさん、大丈夫ですか?」

「はい」

頷いたタバサさんに安心したのも束の間、ぐらりと何かが傾く音が耳に届いた。ハッとして顔をあげれば、頭上の岩がこちらに倒れ込もうとしているではないか。

「タバサさん……!」

私は咄嗟に動き、タバサさんの体を強く押した。その結果、地面に尻餅をついてしまう彼女に心の中で謝罪すれば、同時にかかる巨大な影。範囲の広いそれから逃げる間もなく押し潰されそうになったところ、ぐいっと背後から体を引かれ、なにかに守るように包まれた。

──ゴッ!!!

鈍い音がし、体が傾く。

「っ!? ミトスくん!?」

私を包んでいたものの正体は、家で留守番をしているはずの彼だった。ぐったりともたれ掛かる彼の頭からは、真新しい鮮血が溢れるように流れている。

ごくり……。

喉が鳴る。
慌てて頭を振り、ミトスくんの体を助け起こした。

「ミトスくん! ミトスくん、しっかり!」

「うっ……」

声が響くのか、微かに顔を歪ませた彼はとりあえず生きているようだ。その事実に安堵しつつ、駆け寄ってきたタバサさんと一緒にミトスくんを支えてアルテスタさんの家へ。先の地震で工房から出てきていた彼に事情を説明すれば、すぐに治療道具を持ってきてくれた。ありがたいことだ。
素直に道具を受け取り、ミトスくんの頭部を治療していく。

「リレイヌ、大丈夫そうか?」

「はい。なんとか」

頷いて、薬瓶を取り出す。取り出したそれを傷口に塗り、ガーゼを当てて包帯を巻いた。ミトスくんはその間、眠り続けているが、呼吸は安定している。これならば問題はないだろう。

「っ……ね、さま……」

タバサさんとアルテスタさんが水を持ってくると部屋を出ていったところで、ミトスくんが小さく声を発した。見れば、嫌な夢でも見ているのだろうか。僅かに眉を寄せ、苦しそうな顔をしている彼がいる。

私はそっと、ミトスくんの片手をゆるく握った。これで少しは楽になればと、ほんの少し、癒しの力を込めて。
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