シェアっちゃおーぜっ!

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久々にあったと思えば新事実が次々と湧いて出てくる。

シェアハウスの次は借金だって!?
ドラマでも作れちゃいそうな勢いなんですけど!

皮をむき終わった林檎を丁寧にウサギ型にして、私の目の前にあった真っ白なお皿に乗せて満足そうにほほ笑んだ。



「それでどうして借金からシェアハウスに繋がるの?」

母「ほら、前の前の前…だったかしら?にもらったこの家、私たちじゃ大きすぎるでしょ?」

「実質的には私しか住んでないようなもんだしね。」

母「もったいないってことに気付いたのよ!だから、シェアハウスにして、人を呼び込んで家賃をもらって借金返済すればいいんじゃないかなって考えたの。」



どう?すごいでしょ?なんて、ドヤ顔で話している母親にビンタしてあげたい。
そこに私の意志は何もないしどうすればその考えにいきつくのだ。

人差し指と親指で自分のウサギをつまんだ母親は、滑らかな動作で口に運んで租借した。
優雅に見えてしまうのがこれほどなく悔しいが。



「シェアハウスするよりこの家を売った方が何倍もお金取れるじゃない!その方が簡単に返せるでしょ?思い浮かばなかったわけ!?」

母「その方法はすぐに考えたわ。でもこの家って今までもらったどのプレゼントよりも一番大きいじゃない?手放すのが惜しくなっちゃって!」

「いい年して何を言ってるのよ…。」

母「もうホームページも立ち上げて入居者集まっちゃったし。」

「…もう何も言えないわ…。」



驚きすぎて呆れが出てきた。
もう私はおとなしく母親の言うことに従うしかないらしい。
抵抗するのがばからしくなってきた。
机に片肘をついて、その手で目を覆う。

もう仕方がない。諦めよう私。
昔からこの女はこういう人だ。
私の父親が死んでから、母親はとっかえひっかえ男に手を出すようになった。
家にいることなんてめったにないし。

でも、それがさみしさを紛らわすためだってちゃんとわかってるからあえて深くは突っ込まない。
どこかに行ったときには必ずたくさんお土産を抱えて帰ってくるし。
まぁ毎回のこの突拍子もない思い付きには苦労してるけど。



母「…本当にね、売ろうと思ったのよ。」



私の心情を察したのか、それとも今頃反省しているのかわからないが、急にしおらしくなってしまった。

かじったウサギを見つめながら彼女がまた口を開く。



母「私、名前ちゃんのそばにいることなんてめったにないじゃない?だから、子供のころからさみしい思いさせてるのわかってたの。」



自覚してたんだ。と思ったけど口には出さないで置いた。
シュンとしている母親を見るのは初めてだったから。



母「自分のせいだってわかってるの。でもね、何かしてあげたかった。どんなにお土産買ってもダメなんだって思ったの。」

「…それで?」

母「だから、この大きな家でたくさんの人と暮らして、その人たちと楽しい時間を過ごしてほしいって思ったの。だからシェアハウスにしたのよ。」

「うん。」

母「この家を売ってもきっと今の人が新しい場所をくれると思う。でも…私は彼についていっちゃうから名前ちゃんはさみしい思いをするでしょう?」

「そうだね。」

母「だから、シェアハウス…やって欲しいの。借金の心配はしないで!今付き合ってるマイクとどうにかするわ。」



顔色を窺うように私を見つめるお母さん。
今の彼女はいつもでは信じられないほど、弱々しい表情を浮かべていた。

お母さんからの初めてのお願い。
断る理由なんて何一つないよ。




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