グリレ

□今日も
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隣に立ちたいと思った日から何年も立って。



友達、ライバルを経て遂には恋人の関係にまでなった。


これはどの関係の時でも共通していた事だが、




オレ、レッドに勝てた事、一度も無ぇ。



すうすうと、目下で規則的な寝息が聞こえてくる。


久々の手合わせをし終えて勝利したレッドは、シロガネ山の洞窟内で昼寝についた所だった。

片やオレは今日も負けて、雪を踏み散らしている。
満足気に昼寝し始めたコイツを見て蹴飛ばしてやろうかと思ったが、やめてレッドの傍にどかっと座った。

目を瞑る顔に黒髪がそよいでいる。
レッドは端麗な顔立ちだが、寝ている顔はあどけなく、最強な上に鉄仮面な男だとは思えない。

笑いもしなければ泣く事も無い。
いつも同じ表情をして、どの立場でもオレを常に見下している。


「クソっ。どうしたら勝てるんだよ!?」

オレは悪態をついた。
この隣の男は常に優勢だ。
付き合っててもそう。こんなイケメンで完璧なオレ様と付き合ってるクセに、表情筋が死んでやがる。
常にレッドを気にして焦ったり、泣いたり、表情が豊かなオレが負けてるみたいじゃねーか。

ライバルとしてはいつかコテンパンにしてやる。
無論、恋人でも勝ちてえ。


(…どーすりゃいい?)


オレは真顔で思考に耽った。
こいつが呆気にとられるような事でもすればいいのか。
普段は大事に優しくして了承してやってるけど、何も言わずに唇奪ってやろうか。
そうだ、それがいい。
我慢してるだけで、やろうと思えばいくらでも出来る。
驚いて赤くなる顔でも見れば、ちょっとは勝てた気分を味わえるだろう。
良心が痛むが、今日くらいいいだろ。
すげー驚くぞ、レッドのやつ。

ヒヒヒと心の中で笑い、意気込んだ直後。
目下のレッドがうっすら目を開けた。

「ん…」

オレはニヤリとしてレッドを見た。

「お、起きたか、レ…」

ッドの言葉の続きが、喉から口までいったのに、それは出る寸前に止まった。


寝ていたレッドが頭を起こして、綺麗な顔が目前に迫っていたから。

オレが仰天して声を上げるより早く、レッドはオレに流れるようにキスをした。


何が起きたか分からず心底驚いて、硬直してると、そっと唇を離したレッドが微笑した。


「ニヤついてどうかしたの?」

と、オレの心を透かしたような赤い目が、オレを真っ直ぐ射抜いた。

頬が引きつるのが分かる。
負けた相手が悔し紛れに何かをやり返そうとするくらい、想像に容易いというように。
一瞬で、相手の手の内を読めるからこその勝者だ。


「クソがよ…………」


オレは今日も、真っ赤な顔で負け続けてる。

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