グリレ
□隣に
1ページ/1ページ
元々、嫌いな訳じゃ無かった。
戦ってみると馬鹿みたいに強くて、腹が立つこともあったけど。
「いいライバル」として隣に立ってた筈なんだ。
何度目かの、コテンパンに負かされたあの日。
バトルが終わり、目の前のレッドは相棒達をボールに収めている。
満足そうに、傷ついたポケモン達を回復しながらのそれは、また負けたという事を嫌でも思い知らされる。
無表情で何も考えて無さそうな癖に、無双の強さだ。
「お前さ、もうジムリーダー辺りをライバルにした方がいいんじゃねぇの?」
倒れる事の無い最強のロボットを目の前に見ている気分のオレは、考えるより先に、台詞が口から出ていた。
言ってしまってアレだが、自分でも思っていない言葉を口に出したと思った。
いくら自分が負けっぱなしだからって、ライバルが他で腕試しをしていたら面白く無い。
何度も何度もコイツに負かされて。ライバルとして、釣り合わないんじゃ無いかって。そんな不安があったから。
つい皮肉で、自虐で出てしまっていた。
こんな事を言った所で結局自分の首が締まるだけなのに。
らしくない。
今日のオレは、本当にダメみたいだ。
言ってしまった直後に後悔する。
しかしその言葉は、事態を思わぬ方へと動かした。
表情無しに黙々とポケモンを撫でていたレッドの手が止まる。
その、万年無表情のレッドが苦虫を噛んだような顔でこちらを見てきた。
それだけで充分驚嘆したのだが、次に続いた言葉はその驚嘆をも上回る物だった。
「グリーンじゃなきゃ、嫌だ」
歪めた表情をそのままに、そう怒ったのだ。
怒る所を見るなんて、それが初めてだった。
声を大きく喋る所だって見たことが無い。というかちゃんと喋っている記憶が無い。
コイツにも人並みの感情があったんだな、と感動すら覚える。
そして悪いことに、オレは不覚にもそれが
可愛い
と、思ってしまった。
どうかしてる。
これは女の子に向けて、口説く時に使う台詞ぐらいの物なのに。
「幼馴染み」「親友」「ライバル」どの関係でも出てこない感情の筈なのに。
ポケモンバカで内面が現れない男のコイツを、可愛い、とそう思ってしまった。
本当にもう、完敗だった。
当のレッドは我に返ったのか既に元の無表情に戻り、横を向いてしまっている。
オレは覚悟を決めてレッドを見据えた。
「…レッド」
聞いて、レッドはちらりとこちらを確認する。
すう、とオレは息を吸った。
「次は、オレが勝つから」
そう宣言した。
もう何度目かは解らない。
今までと違うのは
これからも絶対に隣に立ちたい。
そう強く思える事だった。
今後この気持ちは、コイツを手放しなく無い、に下心が付いて変わっていくのだが。
レッドは、そんなオレを横目で確認した後、深く帽子を被り直し、僅かに喜色を浮かべた目を閉じた。
………………………
130808