そして鷹はペンギンになり翔ける

□vs“大王様”
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アップを終えた及川さんが体育館に戻り、7番の選手と交代をした。



「いくら攻撃力が高くてもさ…その攻撃まで繋げなきゃ意味ないんだよ?」


ボールを片手に持ち、人差し指を上に上げる。
何かのサイン…?



―――――違う。


月島を指してる。まさか、
「そこにサーブする」って…



「―――ッッ月島!構えろッッ!」



及川さんのジャンプと同時に後ろを振り返り月島に声をかければ、ハッとした月島が構えるも、強烈な威力に負けて弾いてしまった。



“超攻撃的セッター”


…影山が言ったのはこういうことか。
影山のサーブだって充分恐ろしい。そのサーブの本家がこんなにも強烈な威力だったなんて知らなかった。



「…うん、やっぱり途中見てたけど、5番の君と6番の君。1年生かな?レシーブ苦手でしょ?」



爽やかな笑顔で言い放つ及川さん。


「じゃあもう一本ね。……そうだ、せっかくだから灯真ちゃんのレシーブも見たいなぁ」

「いや無理です」

「そんな嫌そうな顔しないでよ。俺のサーブくらいとれないと全国行けないよ?……っと!」



明らかにサーブではない恐ろしい音を放って打たれたボールが俺の前に迫る。



『身体でとれ』


師匠はたしかこんなことを言ってた。ボールは手でもなく足でもなく、身体で取るものだと。


『はぁ!?顔面当たったら痛いじゃん!師匠俺を殺す気なの?!』
『死にたくなかったら顔面当たらないように上手く取りやがれバカ弟子!!』
『無理無理無理!!』
『手じゃねぇ!足じゃねぇ!身体だ!身体使って取れ!!』
『身体ってなん、ブフォア!?いてぇ!師匠鼻血!鼻血!!』



……なんかついでに嫌なこと思い出した。
まぁいい。大丈夫。


身体で、



「――――取る!っしゃあ……あっ、」



上がった。けど向こうのチャンスボール。



「おー、やっぱとれちゃうか。もっと磨かないとね〜」



…これ以上磨くとか冗談も大概にしてください。



「ほーらチャンスボールだ。キッチリ決めろよ〜」


サーブを取られたにも関わらず及川さんは余裕の表情。スパイクを決められ、青城側の得点になってしまった。


「お、あと一点で同点だね〜。灯真ちゃんは取れたから、またメガネくんにサーブするね」




「…すみません」

「泰長、上げられるだけでも充分凄いぞ」

「そうだそうだ!気にすんな?」

「泰長ナイスファイト〜」



失点してしまったのに、皆が口々に励ます言葉をかけてくれる。

バレーに重要なのは、技術とかセンスとかパワーとか身長だとか脚力だとか、色々あるかもしれない。
だけど俺は、バレーに重要なのは「声」だと思うんだ。
サーブの時、失点した時、お見合いになりそうな時、得点した時…バレーは声をかける時がたくさんある。

バレーだけじゃなく、チームプレーのスポーツのどれにでも言えることだと思うけど。
少しのことでも声をかけて、お互いを確認して…。
だからこうやってチームメイトから声が飛び交うチームは、絶対に伸びると思う。



「…よし、全体的に後ろに下がれ。月島は少しサイドラインに寄れ」


何かを思い付いたのか、大地先輩は指示を出し始める。
月島を端に移動させ、大地先輩は自分の守備範囲を広げる作戦でいくらしい。


大地先輩は影山のサーブも難なくとってしまう守備力を持っているから、きっと大地先輩なら、及川さんのサーブを取れるはずだ。




「…よし、来い!」



主将らしくドンと構えた大地先輩に、及川さんは余裕の表情を崩すことなくボールを上げる。



「…でもさ、一人で全部は―――――守れないよ!」



大地先輩の作戦も虚しく、サーブはまた月島に向かって打たれる。


しかしコントロールを重視したせいか威力は弱まり、月島はなんとかボールをあげることに成功する。


「月島ナイス!」

「おっ、取ったねえら〜い。ちょっと取りやすすぎたかな?こっちのチャンスボールなんだよね」

「くそっ…!」


悔しそうに表情を歪める月島。
さっきの俺と同じ展開だもんな。やっぱりチャンスボールになるのは悔しい。



「ホラ、またチャンスボールだ。きっちり決めろよお前ら」



及川さんによって綺麗にセッターに返されるボール。
今は影山も月島も後衛。前衛は俺と大地先輩と日向。今はブロックに高さのないローテーションだ。

まずい。




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