そして鷹はペンギンになり翔ける
□もう一人の天才
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翌日、放課後。
「で、泰長、どうしたんだ?」
『話したいことがあるから部員を全員集めて欲しい』と大地先輩にお願いし、集めてもらった。
靴が少し擦れた音すらも響くほど静まりかえる体育館。
「ま、ままままさか青城に行くとか…」「嘘だろ!?」「いやだあああ」「ちょっと、冗談キツいんだけど」「及川に気に入られてたもんなぁ…」「泰長行かないでくれよ!」
田中先輩の一言から、皆わさわさと騒ぎ始める。
「―――――俺、」
ピタリ、と再び静まる。
「俺、実は靭帯完治してるんです」
「…えっ」
「けど、翔べないんです。トラウマになって、翔ぼうとすると足が震えて、動かなくなるんです」
「だから、リベロになったのか」
「はい。翔べなくてもバレーがしたくて、リベロになりました。だけど、」
「けど?」
「逃げるの、辞めようと思ったんです。このままリベロはやります。けど、また翔べるようになってWSとかMBとか…したいです。半端な気持ちですみません」
バッ、と頭を深く下げる。
誰も何も言わない。
やっぱり、だめかな…
「なんで謝るの?泰長はトラウマ克服したいと思ったからそう言ったんだろ?良いことじゃん」
だから頭上げて、と大地先輩は柔らかく言葉を紡ぐ。
「でも、俺…逃げてて。克服しようとしないで、どこかで諦めてリベロやろうとしてました。リベロで頑張ればいいなんて…思って」
「これから頑張るんでしょ?ならいいじゃん」
「日向ボゲ!そんな簡単に言うな!」
「なんで?!」
ゲーンとする日向の肩を菅原先輩がポンと叩く。
「まぁまぁ。日向の言うこともわかるべ!」
「おうよ。『バレー辞めます』とかだったら頭下げんのかもしんねぇけど、頑張るのに頭下げんなよ!!」
「ペンギンちゃん翔んだらペンギンちゃんって呼べないじゃん」
「だよねツッキー」
「『鷹』の再来かぁ…強くなりそうだな」
あたたかい。
あたたかい言葉ばかりだ。
「泰長くん、頑張れ」
「先生まで…。ほんと、ありがとうございます。頑張ります」
(ペンギンはまた空に焦がれ、翔ぶことを決意した。)
(翔べない鳥。空を諦めた鳥)
(『鷹』を脱ぎ捨てたペンギンは、また『鷹』になる)
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