そして鷹はペンギンになり翔ける
□“面白いチーム”
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(視点:第3者)
「すごいですねぇ影山…」
椅子に深く腰掛け、深くため息をつく青城コーチに、顧問は冷や汗をかきながら小声で溢す。
「ウチで獲れなかったの痛かったですかね…。声はかけてたんですよね?」
「うん、でも影山がウチに来たからといってあんな風なプレーをしてくれたかは分からないよ。烏野だから、あの五番が居たからこその今の影山なのかもしれない」
「…?…はぁ…」
意味がよく分からない顧問は、疑問を浮かべたまま曖昧に返事を返す。
「まぁ、影山はいいんだ。影山は。今日は、彼を見るために試合をしたからね」
「彼…ですか」
「泰長灯真くんだよ」
そう言ってコーチが視線を向けた先には、せっせとブロックフォローをしている烏野のリベロ――――泰長灯真。
運動部らしくない華奢な身体に、WSであったわりにはそれ程高くはない身長。一見、見逃してしまいそうな選手である。
「たしかに彼は中学時代は“光仙の鷹”として有名でしたけど…今は靭帯の故障でリベロじゃないですか。そんなに気にする選手ではないと思いますが…?五番の速攻のほうが警戒するべきだと思いますが…」
攻撃を重点的にするWS。攻撃の出来ないリベロ。まったく反対のポジションにつく泰長に、顧問はさほど警戒をしていなかった。
「“烏の弟子”である泰長くんは、影山よりも恐ろしいと私は思うけどね…。私は影山より泰長くんのほうが欲しかったんだけど、生憎フラれてしまってね」
ははは、と笑いを溢すコーチに、顧問は訳が分からないという表情で眉をひそめる。
「“烏の弟子”?」
「“鷹”は異名として知れ渡っているけど、そっちはあまり知られてないみたいでね。泰長は、名将―――烏養監督から直々に個人でバレーを教わったんだよ」
「あ、あの烏養監督にですか?!」
「そうそう。烏養監督ご自慢の弟子だ。だから私は彼がどんなポジションであってもこなせることは知っているから、彼が欲しかったんだけど」
フラれてしまったから仕方なく今日は彼の偵察ってわけだよ、と軽く笑いながらコーチは泰長に視線を投げた。
「WSとしての彼は有名だけど、リベロとしての彼は未知なんだよ。だから今日はわざわざルールを変えてまで、リベロの彼をフルで出してもらったんだからね。存分に偵察させてもらうよ」
特に、前衛に上がった彼がどんな作戦をとるのかが楽しみだね。と更に笑みを深くした。
コートで動き回る、翼のない鷹へ、瞳を光らせながら。
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