そして鷹はペンギンになり翔ける
□小心者の緊張
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「影山を……」
「セッターでフルで出す?」
「うん…そうなんだ」
息を切らしながら体育館に現れたメガネの――顧問の武田先生から告げられた青葉城西との試合条件。
“影山をセッターとして、フルで出すこと”
だった。
あまりにも良い意味にとれないその条件に、田中先輩は顔をしかめる。
「なんスかそれ…ナメてんスかペロペロですか」
「い…いやそういう嫌な感じじゃなくてね?えーと…」
「いいじゃないか…こんなチャンス、そう無いだろ」
遮るように、しかししっかりと聞こえたのは、菅原先輩の声だった。
「良いんスかスガさん!烏野の正セッター、スガさんじゃないスか!」
「………俺は、日向と影山のあの攻撃が、4強相手にどのくらい通用するか――見てみたい」
しっかりと、前を見据え、
力強く菅原先輩は言い切る。
菅原先輩の考えは、この先を見通しているからこそ言えることだ。自分のことではなく、“チーム”のことを考えて。
「そっか…じゃあ影山くんで大丈夫だね」
にっこり、と安心したように、武田先生は微笑む。
「それで、影山くんのほうは解決だね。…実は、もう一つ条件があってね…」
「なんですか?」
どうにも言いにくそうに言葉を切らす先生に、急かすように大地先輩が聞き返せば、先生は困ったように俺を見た。
――――俺?
「二つ目は、“泰長くんをフルで出すこと”なんだ……けど」
武田先生は俺の足を見やり、ヘニャリと眉を下げる。
「泰長くんは…その…足が…」
「先生、俺をWSとして出せ…とは言われませんでしたか?」
妙に引っ掛かる言い方に、思わず眉間に皺が寄る。影山はセッターでとポジションまで限定されたのに、俺はポジションすら限定されていない。
俺が有名なのは、WSとしてだ。中学時代、強豪との試合でWS以外はしていないから。
だが、今の条件だと、俺は“どこのポジションでもいい”ことになる。
出てさえいれば。
当然俺がWSで出ると相手が思っていれば別の話だが…
「いえ、WSとは…。ただ…“泰長くんをフルで出してくれればいい”って…」
「………ポジション限定されてないなら俺がリベロで出れば大丈夫です。それに…」
「それに?」
「たぶんその人…俺が翔べないの知ってますから。大丈夫です」
頭の中で浮かび上がる顔に、思わず顔をしかめた。
「そ、そう?なら条件は全部大丈夫だね」
あぁ、嫌な予感しかしない。
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