lonely(long)

□02>地獄
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「あら、どうかした?」
「い...いえっ」

あからさまに慌てて目を逸らす私を見て
お香さんは、少し困った様に笑いながら
甘味処の外に出る様に促す。

「あー...そんなに気を張り詰めないで?
姿形は違うけど、私も同じ女なんだから」

私が甘味処を出ると、花街とは反対方向に
連れていかれ、景色も屋台や居酒屋...
着物屋などが並ぶ通りへと変わっていく。
それにつれて外を歩く年齢層も低く、
また男性より女性が増えていった。

「それより、暮らしは慣れた?」
「はい、あまり現世と変わらない様なので」

お香さんは、それはよかった...と答えて
私を通りにあった着物屋に入れる。
中には綺麗な布類がたくさん。

奥に行くと、私も弓道部でつけていた
和装ブラというものがあったり、何だか
よく分からない布とか、まぁ現世でも
お馴染みの普通のショーツが並ぶ。

「えっと...あなた何カップ?」
「C70です、地獄でもそう言うんですね」

カップという“超”現代的な言い方に私が
少し苦笑いをすると、お香さんも笑い
ながらC70のブラを渡してくる。

白や赤、水色に紫色まで多種多様...

「この群青なんてステキじゃない?!」
「え、あ...ちょっと派手じゃないですか?」

私はポイポイと渡される和装ブラ達を
眺めて何が似合うのか首を捻った。
安定だと白とかだと思うけど...
だけど、やっぱり。

「お香さん、私これがいいです」
「えっ、これ?」

私がお香さんに渡したのは桃色のブラ。
私が着ている着物の色より少しだけ
濃いけど、胸元に小さな梅の花付き。

現世でもこういう色の下着は持ってたけど
何ていうか、今はこれがビビッと来た。
お香さんにそのブラを手渡すと、満足そう
に微笑んで、いいわねとこぼす。

「着物が淡色だから下は白がいいわ。
濃い色だと多分透けちゃうと思うから」


その後は、白類のショーツを3枚選んで
歯ブラシも近くのお店で買い、私達は
再び元いた花街の方へと歩いていった。

私が買い物に付き合ってくれたお香さん
にお礼を言うと、少しだけ...と甘味処
に連れて行ってくれた。
頼んだお団子を食べ、話が進む。

「あなた、18歳って若いわねー」
「お香さんだってすごくお綺麗ですよ」

1日を一緒に過ごしたことで、お香さんは
私のお姉さんの様な関係になっていた。
あの世に来てから、こんなに打ち解けた
話を出来たのは初めてで嬉しい...

「そう言えば朝、白澤さんに会った時に
珍しいって...何が珍しかったんです?」

私が言ったのは朝のことだ。
私の下着選びを白澤さんが頼んだ時に、
お香さんは“珍しい”と言っていた。

そう聞かれたお香さんが、頬に手を当て
うーん...と困った様に少し笑う。

「あの人、少し火遊びが多い人だから...
下着選びなんて普通に出来ちゃうのよ。
なのに今回は私に頼んできたじゃない?」

そうだったんだ...火遊びねぇ。
今頃も、妲己とかいう人のお店に行くって
言ってたから呑み明かしてるんだろう。
私は溜め息をつく。

「私が子供だから興味無いんですよ」
「そうかしら、あなたとっても魅力的よ?」

えっ...?!と私がお団子を飲み込むと、
お香さんは甘味処にかかっていた時計を
見上げて慌てて席から立ち上がった。

そして買った物をバタバタと私に預けると
お店の人にお団子とお茶代を支払う。
私には何か走り書きした紙を手渡した。

「もう仕事だわ、何かあったら連絡して?」
「あっ、今日はありがとうございます!」

私が立ち上がってお香さんを見送ると、
お店の人から2杯目のお茶を出されそうに
なったので、私は控えめに断ると
白澤さんを迎えに花街の方へ歩き出した。
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