lonely(long)

□01>兎
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「ん、やる」
「...えっ、アイス?」

涼太が先にコンビニを出て、それを追う
形で私が後に自動ドアをくぐると
パピコの半分をぐいっと押し付けられた。

「あ...ありがと」

涼太がコンビニの前にストンと腰を
降ろしたので、私も横に座る。
アスファルトが熱いのも夏のせいだ。
一口咥えると冷たさが喉を通った。

涼太は遠い目で青空を眺めていた。
私は黙ってアイスを食べる。

「俺、県外の大学行くんだ」

ンッとアイスが変なところに入った。
咳き込むと涼太がアハハと笑う。
私は慌ててその手を掴む。

「...っけ、県外?」
「そ、県外」

至って普通に話す涼太に私は目眩がした。
というのも、涼太とは物心ついた時から
ずっと一緒で中学も高校も...

「きゅ、急すぎない...?」
「最近やっと決めたからな」

あ...と小さくだらしない声が漏れる。

そう言えば、看護師目指してるんだっけ。
私がどうこう言う権利はないけど...
...ないけど。

「千鶴、どした?」
「...っあ」

ハッとした瞬間、アイスが落ちる。
はぁ、パピコでよかった。
私は笑って、何でもないと答える。
その時、視界の端に何かがチラついた。

白い、何だろうアレは。
跳ねるから...兎?

「...あーーっ、ココちゃん!!!!!!」

私はバッと立ち上がり指をさした。
生物部が逃がした白兎のココちゃん。
街中にそれ以外の兎、いるわけがない。

「ほんとだ、生物部の奴に連絡しとくか」
「ココちゃん捕まえなきゃ!!」

ジャージのポケットからスマホを出した
涼太が画面に指を滑らせ耳に当てる。
私は慌ててアイスを涼太に押し付けると
羽織っていた部活ジャージを脱いで、
目の前を飛び跳ねる兎を追った。

ピョンピョンとあっちへこっちへ。
捕まえたと思ったら、腕からすり抜ける。

「ちょっ、待ってよー」

あまりのすばしっこさに、私は一旦足を
止めて大きく溜め息をついた。
...すごい逃げる逃げる。
これ、捕まえられるのかなぁ?

なんて思った時、白兎が道路に向けて
ピョンピョンと飛び跳ね始めた。
私は慌てて後を追う。

「ココちゃん、そっちは駄目!!!!!」

赤信号に突っ込んでいく白兎。
そして私は気が付いた。
...このままじゃトラックに轢かれる!!

「ココちゃっ...」
「千鶴ーーーっっ!!!!!!!!!」


バタバタと風にはためく和服の白い袖。
腕の中で確かに感じる小さな鼓動。
キイィィィッ!!!という大きなブレーキ音。
目前に迫る大型トラックの車体。

私はギュッと強く瞼を閉じた。


なぁんだ、死ぬって案外簡単なのか。
こんなことなら、もっとちゃんと...
もっとちゃんと涼太に言いたかったこと...

言えばよかったなぁ。
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