ハイキューboys.

□“助けて”のサイクル/赤葦
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「ただいま...」
「おかえり京治、アンタ元気無いわね」

玄関を開けた途端に親が迎え出る。
そしてご飯は風呂は、と息つく間もなく
始まるわけで俺は深く溜め息をついた。
エナメルを持って階段に足をかける。

「ご飯は勝手に食べるしさ、風呂は明日の
朝に入るから...ちょっと放っておいて」

そう言うと下から、やんや言ってくるが
それはもう営業時間外だ、受け付けない。
せめて家でくらいゆっくりさせてくれ。
部屋に入りドアを閉めると真っ暗で、
ドサリとエナメルを床に降ろした。

「はぁ...疲れた」

ベッドに体を投げ出して天井を眺める。
このまま寝ちゃったら楽だなぁ。
時計の針の音が規則正しく耳につく。

「...スコア、まとめなきゃ」

重たい体を起こして、机の上のペン立てに
手を伸ばすと音を立てて落下した。
散らばったペンを、暗闇の中でチラリと
見てしゃがんで拾い上げる。

...ツイてなさすぎ。

ペンを拾い上げている最中に思い出す。
今日あったこととか、嫌なこととか。

『今日調子悪いか?』
『スコアまとめといてくれ』
『確かに打ちづらいな』
『ご飯はいるの?お風呂は?』
『そろそろ志望校決めて勉強しろよ』
『赤葦ってホント頼りになるわ』
『梟谷の副主将とか、凄いですね』

あー、もう嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
拾い上げたペンを床にぶちまけた。
俺は膝を抱えて小さく丸まる。


空気でいっぱいになった俺の風船は、
音を立てて跡形もなくなった。


ボロリと涙が目から溢れ出す。
それに気づいて慌てて手で抑えた。
...駄目だ、気持ちで折れるな。
気持ちで負けたら全部終わりだ。

「大丈夫、俺はちゃんとやれてる。
明日には調子も元に戻ってるはずだし
ちゃんと頑張ってるよ、俺は頑張ってる」

自己暗示をかけるようなその言葉にすがり
溢れ出す涙をジャージの袖で拭う。

ひとしきり泣いた後には、数学の課題も
勉強もスコアまとめもやらなきゃいけない。
俺は枯れた涙を拭って溜め息をついた。


「はぁ......お腹すいた」



こうやって俺のサイクルは回るんだ。




fin.
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