ハイキューboys.

□最後の/赤兎
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木兎さんの手が軽く背中に触れる。

「何百回、何千回、何万回もトスを上げて
それでさっきのトスが...っ最後、でした」
「...おう」

ぎゅっと膝を握り締めた手の甲に、大粒の
涙がぽたぽたと際限なく落ちていく。
こんな風に泣いたのはいつぶりだっけ。
背中に触れた手が、俺のユニを掴んだ。

「もっと木兎さんとバレー、やりたかっ...」
「だーもーっ、泣くな赤葦!!!!!」

ぐんっと視界が開けて反転した。
木兎さんにユニフォームを引っ張られて
背筋を伸ばされたんだと気が付く。
木兎さんは涙を浮かべながら笑っていた。

「これから梟谷は、赤葦が引っ張んだ!!!
だからそんなに泣いてんじゃねぇ!!!」

そう言い終わるが先か、木兎さんの頬に
涙が伝って、白い歯が笑う。
あぁ...なんて強いんだろうこの人は。
やっぱり俺はこの人と、いつまでも一緒に
コートに立って、トスを上げたかった。

「終わり...ですか」
「終わりじゃねぇよ、新梟谷の始まりだ」

そうとだけ言うと、木兎さんが立ち上がる。
そして少しの間を置いて振り返ると、
俺の頭に優しく手を乗せた。

「落ち着いたら来い、な」
「...は、い」

俺は遠ざかっていく背中をただ見ていた。


4月に入部して、今日まで1年10ヶ月。
あの人に上げたトスの数は知らない。
ただ、このゴツゴツした俺の手が。
指の先の皮が固くなった俺の手が。
あの人との時間を物語ってる1つの証明。

トスを上げなかったらしょぼくれて。
スパイクミスしてもしょぼくれて。
お調子者で、テンションが異常に高くて。

だけどあの人のアタックが好きで。
何度も何度も何度も救われて。


「そうだ...俺の、憧れの先輩だったんだ」


不意に出たその言葉、酷く虚しく感じた。
憧れの先輩“だった”。
あぁ、そっか...終わったんだっけ。

もうあの人のご機嫌取りもしなくていい。
もう不用意に名前を呼ばれなくていい。
もうあの人の尻拭いをしなくていい。
もうあの人に......

あの人にトスはあげなくていい。


「...っう......っうぅ......」

口の端から漏れる嗚咽に俺は膝を抱えた。
馬鹿だなぁ、俺は本当に。
どうして最後のトスでミスったのか。


そうか、もうあの人とは。

コートに立てない。




fin.
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