ordinary(long)

□08>亀裂
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「じゃあボール磨いといてくれる?」
「はい、分かりました!!」

私が頼むと伊原ちゃんは笑顔を見せる。
部活が始まって30分近くが経った頃、
体育館のドアがガラッと開いた。

「アレッ、矢巾?」
「あ、体育委員で遅れました」

パタパタと走る矢巾を見送ってから、
伊原ちゃんが、ん?と首を傾げる。
そして体育館の大きな時計を見上げた。

「八雲ちゃん遅いですね?」

確かに...ちょっとだけ遅いような。
あ、でも国見もまだ委員会終わってない。
もしかして長引いちゃってるのかな?
図書委員と広報委員だけ。

「...まぁ、そのうち来「遅れましたっ!!」

私の声に被せるように大きな声がして、
振り返るとそこには八雲ちゃん。
走ってきたのか、少し息が切れている。

「委員会が.....あのっ、長引いちゃって」
「じゃあ、2年の記録取ってもらっていい?」

申し訳なさそうに謝る八雲ちゃんに
ノートを手渡すと、はい!!と返事を返して
ストップウォッチと共に走っていく。
うん、心配いらなかった。

「ん......明、そこで何してんの?」

と、伊原ちゃんが私の後ろをじっと見る。
明...とは、あぁ国見のことか。
振り向くと広報委員だったはずの国見が
ドアの近くで、ただ突っ立っていた。

「ほんとだ、国見どうしたのー?」
「いや.....あの八雲、ってヤツ」

そうとだけ言うと国見は、走っていった
八雲ちゃんにジッと視線を送る。
その目は、心なしか鋭い気がするけど...

「や、何でもないっス」

ん?と2人で目線を合わせて首を傾げると、
国見も走ってコートに入っていった。
八雲ちゃんが...どうしたんだろう?

「明って、たまに変なとこありますよねー」
「あ、あぁそうだねぇ」

アハハと笑う伊原ちゃんに、私は半ば
笑顔を引きつらせながら返す。
...変っていうか、何か睨んでなかった?

コートの中を見ると、遅れてきた国見と
矢巾がアップを始めていて、八雲ちゃんは
コート脇に立ってストップウォッチと
睨めっこしながら徹と話していた。

「そういえば、烏野との練習試合って...」

持っていたボールが地面に落ちる。
座ってボールを磨いていた伊原ちゃんが
無言で私のことを見上げた。

「.....千尋先輩、えっ、まさか」
「...そのまさか」

考えていた国見と八雲ちゃんのことなんて
その瞬間、一気にどうでもよくなった。
全身から血の気がサーッと引く。


烏野との練習試合、連絡忘れてた....


「あぁぁぁぁ、私はなんてことを!!!!」
「落ち着いて先輩っ、まだ間に合います!!」

絶望的に床に膝をついた私を、伊原ちゃん
はワタワタと手を動かして励ます。
...私としたことが何て凡ミス!!

「ごめんっ、これから電話かけてくる!!」
「了解です!!」

私は磨いていたボールをほっぽり出して
慌てて体育館のドアを開けて飛び出た。

あぁ、もうほんと私は馬鹿か。
...国見のことなんか心配してる暇なかった!!
どうか、どうか間に合いますように。
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