ordinary(long)

□05>答え
3ページ/9ページ


あ...手、荒れてる。
言われるまで気がつかなかったけど、
確かに少し皮が向けてるかもしれない。
でもコレ全然目立たない程度なんだけど。
それに徹に言ったこともないし...

「女子ならクリームとかさ、塗りなよー?」
「う、うるさいなぁ」

と、言いつつも手袋は一応もらっておく。
ほんとに自分のことは後回しにするくせに
人のことはすぐに気がつくっていうか...

「ほんと...マッキーの言う通り変態主将」
「なっ、何さヒドイなぁ!!」

カゴを持ち上げて、ドアに手をかける。
後ろから徹にマフラーをかけられた。
まだ触れたばかりなので、布が冷たい。
私は一瞬びくっと肩を上げた。

「ったく、自分が女子って自覚持ちなさい」

柔らかいその声に、びっくりした気持ちも
一瞬で落ち着いて溜め息が出る。
いつもなら、らしくないぞと徹を茶化す
人がいるのだけど、今は2人きりだ。

「じゃあ...そろそろ洗ってくるわ」
「ん、あと20分くらいで上がるからね?」

ドアを開けて部室から出ると、冷たい風が
マフラーから出た顔に突き刺さる。
宮城の冬は、相変わらず寒いわーっ...
15分で終わらせちゃおうっと。

階段を降りて、体育館横の水道にカゴを
置くと中からボールの音が聴こえた。
まだみんな、練習してるなぁ。
バレーやってる時はマネの大変さとか
分からなかったけど、やってみると大変。
でもやってみると、選手一人一人を理解する
ことの大切さを逆に知ることが出来た。

「最近の前野君、オーバーワーク気味かな」

手に手袋を履きながらそう思う。
自主練が終わったら、注意してあげよう。
さ、早くボトル洗っちゃお。

私が今日洗わなきゃいけないスクイズボトル
の数はざっと見ても30本くらいある。
しっかり洗わないと食中毒とかになったら
困るし、さっさと洗わなくちゃ...

「いやー...相変わらず冷たいわ」

水を出すと、手袋を履いてるとは言っても
冬の冷たさと水の冷たさが伝わってきた。
スポンジに洗剤をたらして、洗い始める。
そういえば...アレ、どうなったのかな。


『俺好きだよ、千尋のこと』


思い出して、首をブンブンと横に振った。
や...別にあれから何も言われてないし。
あれはそもそも告白じゃなかったのかも。

友達として好きって言われてた、とか?
でも、あの時のあの表情......

「千尋?」
「へっ、は...一?!」

驚いて、洗っていたボトルを落とす。
ガコンと大きな音に一も少しだけ驚いた。
開いた体育館のドアから光が漏れる。

「ご、ごめん...なした?」
「今日伊原いねぇなと思ってよ」

タンタンっと石階段を降りてきて、ジャージ
の袖口を捲るとボトルに手を伸ばした。
そして、蛇口から水を出して震え上がる。
その腕が寒々しくて思わず苦笑した。
一もつられてニッと笑う。

「寒ぃな、毎日毎日お疲れさん」
「風邪ひかないでね、ありがとう」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ