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□05>答え
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「自主練っすから、部誌しっかりな及川」
「はいはーい」

ミーティングが終わり、数人が着替え部室
から出てくるのを見て一が声をかける。
うちでは最後の片付けと鍵閉めを主将か、
副主将のどちらかがやらなければいけないし
いつも2人は、時間まで自主練をするか
部室で部誌を書いて待っているのだ。

「じゃあ私も部室にいるから、一は後でね」
「おう、及川のこと見張っててくれ」
「ヒドイなちゃんと書くってば」

一と数人が残る体育館を後に、私と徹は
外の運動部部室棟へと向かっていく。
体育館から部室棟までの道のり、冬とも
なるとさすがに寒すぎる。

私はバレーをやらないから、Tシャツと
ジャージの間にカーディガンを着ている。
なのに徹はTシャツにジャージだけ。
しかもTシャツは速乾性で薄手のもの。

「うわー、さっむいわ今日」
「そんな格好で風邪ひかないでよね?」

2階にあるバレー部部室のドアを開けると
中で着替えていた後輩数人がお辞儀する。
外と比べると、とても気温が高い。
中へ入って徹は持っていた部誌を広げる。

「マッキーまだいたんだね、まっつんは?」
「あぁ千尋、用事あるって帰ったわ」

帰り支度をするマッキーがロッカーを
閉めて、右手をぷらっと振った。

「じゃ、また明日」

ばいばい、と手を振り返すと流れに続いて
着替えていた後輩達もマッキーを追う。
そしてドアがばたんと閉まり、部室には
私と徹の2人と無言が残された。
というのも別にいつものことで、私は
部室掃除とスクイズボトルの洗浄を始める。

徹は部室一角の机で、部誌に今日の活動
や改善点などをどんどん書き込んでいた。
こういう部活をやってる、いわゆるオン
モードな徹は集中している。

後輩達や他の部員がいる時は、部誌を
書いていてもおしゃべりしたりふざけたり
しているけど、必ず私や一と2人きりに
なると集中して仕事をし始める。
気を使わなくていいからね、と言っていた。

「千尋、ボトル3本買いたいんだけど」
「ん、部費から引いて買っておくね」

ほうきで部室全体を履いていると、
ロッカーが1つ空いているのに目がいった。
あー、川口君か...何かはさまってる。
雑誌かなぁ、女子高生の...放課後...レイ...

「んっ、んん!!」
「...咳払いなんかしてどしたの」
「な、何でもない」

あぁもうホント健全な男子高校生だよね!!!!
ありえないんですけど、ありえない。
私は見てみぬフリをして雑誌をロッカーに
ぶち込んでしっかりと閉める。
...あんなもんなのかね、男子ってバカ。

「これバレたら、一...怒るなぁ」
「ん.....岩ちゃん?」
「や、大丈夫ちゃんと隠したから」

?な状態の徹を置き去りにして、私は
カゴに大量のスクイズボトルを放り込んだ。
部員全員が使ったボトルを、外の水道で
洗うという冬の苦行が待っている。
いつもは伊原ちゃんとやっているのだけど
今日は用事があるらしく帰ってしまった。

「洗ってくるね」
「あ、ちょっと待って?」

ドアに手をかけると、徹が机から離れて
自分のロッカーをばんっと開けた。
部誌には割と綺麗な字でビッシリと今日の
活動内容が真面目に書かれている。

きっと1年の何人かは徹のこういう真面目
なところ、知らないんだろうなぁー。
と、ロッカーを閉めた徹が、私の手を取る。
そして手に何かを握らせた。

「はいコレ、手荒れるし冷たいっしょ?」
「...ゴム手袋?」
「千尋の手が、最近荒れてるんだって
お母ちゃんに言ったら怒られてさぁー。
女子高生に外で水仕事、しかも素手で
やらせるなって、ゴム手袋預けられたのさ」
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