ordinary(long)

□03>嘘つき笑顔
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そこは知らない体育館だった。
青城ではない、どこか違うところ。

そこではバレーボールの音が響く。
それから踏み切る時のスキール音が鳴って
直後、手とボールが当たる音がする。

打っていたのは徹だった。

徹はサーブを打った直後に、倒れ込む。
私は慌てて駆け寄ろうとするけれど
足が地面に張り付いたように動かない。
叫ぼうとしても声がうまく出ない。

徹は右膝を抑えながら、うめいていた。
痛い...苦しい...勝ちたい...勝てない。

「...っ徹!!!!!」

やっと出た声に、徹がこちらを振り向く。
そして冷たい表情で一言だけ言い放った。

『見なかったことにして』



「......っは」

時計の針が一定のリズムを刻んでいた。
全身に嫌な汗をかいている。
溜め息をついて、私は天井を見た。

最近、同じ夢を繰り返し見てる。

いつも徹の一言で夢から醒めるんだけど。
もちろん、寝覚めはサイアクだ。

私はベッドから這い出て欠伸をする。
...日曜か、今日も部活だ。
学校には10時集合で今は6時。
嫌な夢のせいか、早く起きすぎた。

「シャワーでも浴びよ」

普段なら二度寝したいところだけど。
今は、そんな気分にならない。
それにこの嫌な汗を早く流したい。

ハンガーにかかったタオルを引っ掴むと
階段をゆっくり降りていく。
と、リビングから物音が聞こえた。
ひょいと顔を出すと、お父さんが1人で
朝ごはんのパンを食べていた。

「おはよ、お父さん」
「随分と朝早いな、千尋」

まぁね...と答えて私は冷蔵庫を開ける。
ペットボトルの水を一口飲んだ。
少しだけ、目が冴えていくのを感じる。

「お父さん、今日も仕事?」
「あぁ、ちょっと今が大詰めなんだ」

そう答えるお父さんは、出版会社に勤める
まぁ、なんていうか...偉い人らしい。
休日出勤もご苦労さまだ、と前に言ったら
千尋もなって言われた。
確かにそうかも、と思ったのを覚えてる。

ペットボトルをしまって私がお風呂場へ
行く時、お父さんが私の名前を呼んだ。
なに?と顔だけをそちらに向ける。

「よく分からんが、あんまり無理すんな」
「あー.....うん、お父さんもね」

父親が偉大だとは、確かにその通りか。
私とお父さんは生活リズムが違うし、
そもそもお互いが家にいないから
顔を合わせることも珍しいんだけど。
何故だか、こういうことに聡いらしい。

「じゃあ私シャワー浴びて来るからね。
気をつけていってらっしゃい」

そう声をかけると、お父さんがパンを
食べながらヒラリと手を振るのが見えた。
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