ordinary(long)

□02>哀れな背中の王様
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高校に入学してから、私には悩みがあった。

「じゃあ、俺はこっちだから」
「ばいばーい岩ちゃんまた明日ねー」
「じゃあね、一!」

部活帰り...中学よりも長い通学路。
一と分かれて、私と徹で歩き始める。
むかつく笑顔を浮かべた徹を見上げて
私は少しだけ眉を下げた。

「ねぇ、今日も監督に言われたんだけど」
「...なにがー?」

はぁ...と溜め息をつくと徹も苦笑する。
それは何だか切な気な表情だった。
私は俯きながら監督の言葉を思い出す。

「足、怪我してんじゃないのかって」

悩み、そうそれは徹の足の不調。
ただ本人はそれを頑なに否定する。
だから私は困っているのだ。
症状が現れたのがいつなのか分からない。
徹が申告してくれなかったから。


私が異変を感じ始めたのは徹が2年生に
なって、しばらく経ってからだった。
フォームがおかしい、右足を庇ってる...
ただそれに気付いたのは私だけだった。

だから、最初は思い過ごしかと思った。
徹が、誰もいない真っ暗な部室の中で
息を荒らげながら右膝を抑えて
いたのを見てしまうまでは。


「ねぇ、病院行った方がいいって...」
「大丈夫だって、心配症だなー」

私はその言葉に口をつぐんだ。
徹の大きな手が、私の頭に触れる。
いつも、ここまでしか言えない。
病院に行こうって、それが言えない。

『見なかったことにして』

徹が苦しむ姿を見て、思わず口に手を
当てたあの時、徹はそう冷たく言った。
その時の表情を忘れることはない。

怒ってるようで、切ないようでもあり、
泣きそうで、そんな笑顔だった。
そしてその言葉はどこか脅迫じみていた。
とても....彼を怖く感じた。

「大丈夫、あの時はちょっと痛かったけど
別に今は何ともないんだってホントに」

そう言う徹が、私は恨めしい。
私は知っている。
徹がたまに右膝をさすっているのを。
他とは違う、汗をかいているのを。
たまにアイツの笑顔が痛みで歪むのを。

「でも......」
「だからさー」

私は言い知れぬ恐怖感を抱く。
慌てて徹の顔を見上げて寒気がした。
徹は、相変わらず笑顔を浮かべていた。

「大丈夫なんだってば、ほんとに」

私はぎこちなく、うんと頷く。
すると感じる威圧感はなくなった。

「明日の試合、光仙中となんだってー」

そう言う徹はいつも通りだった。
立ち止まる私を見て、大丈夫?と心配する。
あの威圧感は無意識なのか...

「そう、なんだ」
「......千尋どしたの、大丈夫?」

私が掠れる声で大丈夫、とつぶやくと
徹は少し心配したような表情をして、
私の頭をぽんぽんと優しく撫でた。
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