ordinary(long)

□01>天才ではない
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今日で一体、何本目だろうか。
スパイクを阻むブロックを突っ切って
ボールが相手コートへと落ちていく。
ラインズマンの旗が下へと振り下ろされ
ホイッスルと同時に試合が終わった。

「岩ちゃん今日もキレキレだったねー」
「後半、トスちょっと低かった」
「ごめんごめーん」

私は体育館の上から頬杖をつく。
...今日の練習試合も北一の圧勝、か。
私達が入学したこの北川第一中学校は
バレーの超強豪校だ、無理もない。

私も徹も一も、この北一に入学してから
もう3年が経とうとしている。
私は溜め息をついて階段を降りた。

「お疲れ様、一」
「千尋か、今日の女バレ部活は?」
「珍しくオフだから練習試合見てた」

そうか、と答える一は汗を拭いながら
スポーツドリンクを一口飲む。
と、同時に後ろからアイツが顔を出した。
私はわざと目線をそらしてみる。

「ちょっとー、及川さんにはー?」
「はいはい、徹もお疲れ様」

ニッと満足そうに笑う及川徹。
私はその子供みたいな笑顔に苦笑した。
そして一は徹の首根っこを掴む。

「おら、クールダウンして着替えろ」
「もー岩ちゃんのケチー」

そう言いながら部室へと向かう徹は、
やっぱり一に従順なところがある。
私が手を振って部室へ行く2人を見送ると
ふと、一に地面を指さされた。

「待ってろ、すぐ戻るから」
「あ、うん分かった」

試合が終わった体育館の隅に私は座る。
せわしなくボールを片付けたり、ネット
を片付ける部員達をボーっと眺めた。
こんなに部員はいるのに、スタメンは
少ないんだもん、結構残酷だよなー。


及川徹、その名は他校にも知れている。
強豪北一でスタメンセッター、正確な
トスを上げるだけではなくテクニックも
持ち合わせているカリスマ性のある選手。

故に、彼は天才だと周りから言われる。
彼はそれに嫌悪感を抱いていた。

いつもヘラヘラしている彼の本当の姿、
それを知らずに彼を語ることは不可能だ。
アイツは...

「如月、見てたのか」
「お疲れ様でした監督」

突然の上から降ってきた低い声に驚き
私は慌てて立ち上がる。
男バレの監督、あまり面識はないけれど
こっちのことは知っているらしい。

「及川からいつも話は聞いているからな。
女バレに、すごいリベロがいると」
「い、いえ...そんな」

私をそのリベロだと思ったのはきっと
さっき徹と一と話していたことと、
この忌々しい身長のせいだろう。
140cm前半なら、リベロしか出来ない。

「女バレの監督からも話は聞いているさ。
及川と岩泉とは幼馴染みらしいな。
如月なくして女バレは回らない
といつも監督から話をされる、はっはっ」

どうも...と私は苦笑いした。

徹と同様に、私もこの辺りでは警戒
されている選手だと監督からよく言われる。
まぁ、自分が弱いとも思ってないけど
別に強いとも思ってないから微妙な気持ちだ。

「千尋ー、帰ろー!!」
「あっ徹...すいません、失礼します」
「あぁ、またいつでも観に来てくれ」
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