黒バスboys.

□凡人と天才/高緑
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それから、あいつの呼び方が変わって。
少しだけ距離も縮んだ気がして。
そんな時に監督から声がかかった。

「試合に出てみるか」

俺がいるのは強豪の秀徳で。
真ちゃんは俺とは比べ物にならないくらい
強いからもうスタメンに入ってるけど、
俺も真ちゃんもまだ1年生だ。

不安はある、ない方がおかしいだろ?
でも断る理由だってもちろんない。

今までの努力を認められたなら、俺は
周りの期待に全力で応えよう。
チームの為に戦おう。


「お前はただの凡人だろう?」
「チームの足を引っ張るだけだよ」
「天才とは違うんだよ、天才とはな」
「誰もお前を求めてないよ」


そんな声が俺を深夜起こすようになって
「俺」とは違う「俺」がいるようだった。

感じる劣等感や焦燥感から、いつしか
心もボロボロになって、寝不足で体も
悲鳴をあげ始めた頃。

俺は少し人と距離を置くようになった。
あからさまにでなく、意識的でもなく、
人と表面上でしか接せなくなった。
明るく振る舞ったって人と深いところまで
関わるのは…なんだか怖くて。


「何かあったのか、高尾」

最初に気づいてくれたのは真ちゃんで。
ただ、俺は言えなかった。
きっとこんなプレッシャーにいつも
耐えていた真ちゃんを「天才」の一言だけで
済ませていた俺には相談出来なかった。


「なに真ちゃん、心配してんの?!」

いつも通り笑い飛ばして、心の奥には
触れさせないようにしたけれど、大丈夫
とは口が裂けても言えなかった。

その何日後かの試合、初めてのスタメン
で明らかに不安そうにしてた俺に真ちゃん
がかけた言葉。


「俺には高尾のパスが必要なのだよ」


その一言、たったその一言だけで「俺」の
中にいた「俺」はすっと消えていった。

大丈夫、今なら大丈夫だ。
努力はした、たくさんした。
真ちゃんは天才なんかじゃないんだ。
それなら俺だって追いつけるだろ?

俺は目を閉じ、長い息を吐くと今まで
真ちゃんに向けることのなかった、深い
信頼のこもった眼差しを向けた。


「任せとけ、俺のエース様」







fin.
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