黒バスshort.

□そんなの嘘なわけで/青峰
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「すみません…2Fの禁煙エリアは席が
埋まってしまっていて…」

入ったファストフードの店内は階ごとに
分煙してるらしく、煙が立ち込める。
そういや千広って煙草大丈夫だっけ。

「おい、お前って煙草大丈夫だっけ?」
「好きじゃないけど…大丈夫だよ」

にこっと笑う千広の手は俺の
服の袖をずっと掴んだままだ。
特に意味は無いんだろうけど、俺は
なんとなく気になって溜め息をついた。
黄瀬が店員に1Fでいいと伝える。

「おい、いつまで握ってる気だよお前」
「え…あぁっ、ごめんごめーん」

悪気なしだったようで千広は笑って
すぐに俺の服の袖から手を離した。
黄瀬が取った席に俺達も座る。
と、千広の携帯が鳴った。

「あっ…ちょっとごめん」

バッグと上着だけを置いて俺の横から
離れてトイレへと向かうのをぼーっと
眺めていると黄瀬が俺を軽く小突く。

「青峰っちー、そういうことっスかー?」
「…どういうことだよ」
「千広ちゃんのこと、好きなんスか?」

…俺が千広を好き?
そんなわけねぇだろ、ぜってー違うな。
あいつとは月一の買い物だけの関係だ。
別にそういうんじゃない、多分。
俺は黄瀬の頭を叩いた。

「うっせぇよ、早く注文しろ黄瀬」
「青峰っちは相変わらず荒いんだから」

と、千広が携帯片手に戻ってくる。
そして俺たちに両手を合わせた。
なんとなく嫌な予感がする。

「ごめんね…彼氏が今から会おうって…」
「え、千広ちゃん彼氏いたんスか」

ほんとごめん、と慌ただしく外に出る
支度をする千広を俺は黙って見ていた。
千広も俺の方をじっと見る。

「大輝、ごめんマフラー返してくれる…?」
「……………」

千広がちょっと困ったような顔をする。
黄瀬も何事かと首をかしげている。
千広はマフラーに手を掛けた。
それを俺は反抗するように避ける。

「ちょ…大輝、お願い返してっ」
「い…………けよ、返すから」

俺は溜め息をついて千広の
甘い匂いが染み付いたマフラーを解いた。
首元が少し、寒くなる。
千広はじゃあまた来月と言って
黄瀬にお辞儀をして店を飛び出した。

黄瀬はしばらくうなだれる俺を眺める。

「いくな…」
「あ、なに言ってんだ黄瀬」

黄瀬をちらっと見ると呆れたような、
少し寂しそうな笑みを浮かべていた。
そしてまた口を動かす。

「いやだ、いろよ…って言いたかったんスか」

俺は机に突っ伏してだれた。
あいつに彼氏がいるなんて知らないし....
俺達は月一でしか会わない仲なんだし。

「あー…中途半端に匂いなんて覚えるモン
じゃねぇな…黄瀬、おごれ」
「仕方ないっスね」

ただ、あいつの温もりが、マフラーの
甘ったるい匂いが、掴んだ服の袖が、
すぐに忘れられるものだなんて。

そんなの嘘なわけで。

多分、忘れるのは難しい。
来月の同じ日、また会いましょう。






fin.
(青峰っち、大丈夫スか?)
(黄瀬、今日は1日付き合え)
(お安い御用っスよ)
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