黒バスshort.

□大切だから/伊月
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もう…申し訳なさしかない。
私がつらいだなんて言わなきゃ、俊くん
は部活だって早退しなくて良かった。
迷惑も心配もかけなくて済んだのに…

俊くんは私の頭を優しく撫でて、
キッチン借りるよと部屋を出ていった。

「会えて嬉しいけど…申し訳ないな」

うぅ…とうなだれる私は今どんなに
嘆いても俊くんのお世話にならないと
このままどうなるか分からない。
もしかしたら病院送りだったかも…

何分かして、俊くんが小さな一人用の
お鍋におかゆを入れて戻ってきた。

「風邪と言えばやっぱ、おかゆだよね」

開けられたお鍋からする良い香りは、
俊くんの料理上手を表している。
私も料理は一通り出来るけど、俊くんも
男の子なのになかなか上手な方だ。

食欲はあまりなかったけど、残すのは
あまりにももったいなくて口に運ぶ。
おかゆだからあんまり味はしないけど、
卵が入ってて、多分普通のよりおいしい。

「美味しい…ありがとう俊くん」
「よかった、残してもいいからね」

それからしばらく、いつもより時間を
かけておかゆを食べ終えて俊くんも
やっとベッドの横で一息ついた。

私は天井を見上げながら考える。
そして、せっかくなので本人に聞いてみた。
私は体を俊くんに向ける。

「俊くんは…何で私を好きになったの?」
「えっ、急にどうしたの、大丈夫?!」

俊くんは案の定、慌てて聞く。
私の部屋にあった漫画を読んでいた手を
止めて私の額に手を軽く当てた。
…あっ、手が冷たくって気持ちいい 。

「熱あがってきた?」
「違うよ、だって俊くん今日、部活早退
してきたし…俊くんにとってバスケは、
恋愛よりももっと大切なものでしょ?」

うーんと唸って確かにそうだけど…とぼやく。

「俺はさ、バスケが好きだし恋愛の為に
バスケの時間を割くのは嫌なわけ。
でも今日はバスケより千広の方が
大切だって思ったから来たの、それだけ」

そう言う俊くんにこっちが赤面する。
俊くんがこういうことをさらっと言うのは
知ってたけど…やっぱ恥ずかしい…

「千広のこと好きになったのに
特に理由はないし、理由とかいる?」
「…え、あ、えと…いらない、です」

俊くんは照れて布団で顔を隠す私の
頭をぽんぽんと撫でると立ち上がった。
鞄を持ち上げて背負う。
帰っちゃうんだ…とか思いながらも、
そこで引き止めたりはしない性分だ。

「じゃあ、帰るけど大丈夫?」
「ん…ありがとね」

しばらく俊くんは私を見つめたまま、
動こうとしなかった。
私は不思議に思って口を開きかける。
と、その口が数秒間、塞がれた。

「…俊、くん」
「帰んないと俺も男だからね、そんな
顔で見られたら何するか分かんないし」

意地悪そうに笑った俊くんはぽけっと
している私に手を振ると部屋を出ていった。

天井がぐらぐらと歪む。
でも、きっとそれは熱のせいじゃない。

私は玄関の扉が閉まる音を聞きながら、
きゅっと布団を握り締めて笑みを浮かべた。





fin.

(あの後、体調悪くない?)
(えっ、何で?)
(キスして風邪うつってないかなって…)
(千広の風邪なら全然いいけど)
(さらっと言うの恥ずかしいから…//)
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