amnesia(long)

□01>日常
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俺は昔から及川と一緒だった。
何をするにしても隣には及川がいたし、
記憶を辿れば、どこにでもアイツがいる。

特に中学に入ってからは部活をやって
いた訳で、多分1日の殆どを及川と過ごし
その時間は家族との時間より多かった。
そしてそれは高校に入ると、より顕著に。


及川徹という人間は、周りから見れば
たくさんの面を持ったヤツだった。


ある人からは溢れんばかりの愛情を受け
ある人からは羨望の眼差しを向けられ、
ある人からは憎しみをぶつけられていた。

カッコイイ、天才、センスがある、力強い
完璧、むかつく、付き合いたい、勝ちたい
ズルイ、憎い、羨ましい、大好き、憧れ...

及川ほど一気に色んな感情をぶつけられて
いるヤツを俺は見たことがない。
それでいて、本人はヘラヘラしている。
好きと言われれば俺もだよと言い、
嫌いだと言われても笑った。


でも俺の知る及川は、ただの泣き虫。
小学生の頃に転んで泣きわめいていた
アイツのままで止まっている。

どんなに憧れられたって、どんなに好意を
向けられたって、どんなに嫌われたって
及川もただの男子高校生なのだ。
俺と変わらない...どこにでもいる18歳。


大学に進んでからはバレーサークルに
入って、2人でバレーを続けて。
高校よりは緩く楽しんでいた記憶がある。


そんで社会人になってアイツが泣きながら
電話を俺にかけてきたもんだから、
それはビックリして焦った。

確かに俺の中のアイツは泣き虫で止まって
いた、それは事実だけれど...そう思って
いたのはあくまで高校生の頃までだ。
大学に入ってからさすがにもう泣かなく
なって素行にも落ち着きが見えてきて。
というか性格が大人になった。

なのに急に掛けてきた電話越しでは泣くわ
絡むわ、挙句の果てには電話を切るわ。


...俺がアイツに甘いのは昔からだったが
その一件があってからは尚のことだ。

つまるところ、俺は及川を心配している。
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