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□09>>大切な人
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「政経のノートって提出明日だっけ?」

徹が部活前に大きな声で私に話しかける。
それは部室にいる全員に聞こえた。

今日は、スマホを仕掛ける日...


ホントは政経のノート提出なんて無い。
だけど政経のノートを無くしたらマズイ
という風に周りにアピールしておくのだ。

「あー、うん...確かそうだったはず」
「山森先生のノート点検厳しいもんね〜」

そう言いながら、徹がロッカー内を漁る。
...多分、スマホ設置してるんだ。
八雲ちゃんはこれといった様子はなく、
ただ淡々とビブスの用意をしている。

「よし、そろそろ体育館移動しろよー」

そう言った一とバッチリ目が合った。
分かってる、手筈はもう決めてある。
私はコクリと小さく頷いた。

「八雲ちゃん」
「あっ...はい、何ですか?」

ビブスを用意していた八雲ちゃんに声を
かけると、私の方を振り向いた。
部員達はゾロゾロと外へ出て行く。

「今日は部室でスコアまとめてて欲しいの」

私は3冊のノートを八雲ちゃんに渡す。
すぐに終わる仕事量じゃない。
ただ、今日は部室から出られると困る。
八雲ちゃんは首をかしげた。

「?...分かりました」
「大変だと思うけど、ごめんね?」

手を合わせて謝れば八雲ちゃんは笑う。

...ごめんね、騙すようなことして。
でも、これで政経のノートが無くならず
録画にも八雲ちゃんが盗んでるとこが
写らなければ、無罪って分かるから。

「じゃ、伊原ちゃん行こっか」
「はい!!」

私は八雲ちゃんからビブスを代わりに
受け取って、伊原ちゃんと部室を出る。
バタンとドアを閉めて溜め息をついた。

「先輩?」
「あっ、あぁ...何でもない」

伊原ちゃんがコテンと首をかしげながら
階段を降りて行く姿をボーッと見る。
そしてビブスを握り締めた。
ふと、部室棟の下から目線を感じる。

「...国見?」
「あ...えと、大丈夫ですか」

伊原ちゃんを含め、全員が体育館に入り
外に誰もいなくなるのを見計らって、
国見が私のことを見上げた。

カンカンと階段を降りる。

「ん、大丈夫だよ?」
「...そうですか」

国見が何か言いたげにキョロキョロする。
そして周りに誰もいないことを確認
すると、申し訳なさそうに呟いた。

「昨日のこと、1年にはバレてませんから」
「あー......そっか、ありがとね」

その時、ガラリと体育館のドアが開く。

「国見ちゃーん、アップ始めるよー!!!」
「...っあ、はい!!」

徹の声に国見が答え、私に頭を下げる。
ヒラリと手を振れば国見は去っていった。
...余計な心配かけちゃってるなー。

はぁ、と溜め息をつく。

そして私は烏野との練習試合の連絡を
取るために校舎へと向かった。
 

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