lonely(long)

□02>地獄
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おどろおどろしい沢山の生き物達。
周りにあるのは汚い川と砂利の河原。
どこからか鬼の轟音の様な声が聞こえて
刑を受ける者達はむせび泣く...


「あの...ここホントに地獄ですか?」
「そうだよー、ここは衆合地獄」

私は拍子抜けしながら辺りを見渡す。

そこはまるで繁華街の様な賑わい。
想像していた鬼も亡者もいない。
江戸時代でいう、遊郭が立ち並んでいる
その通りはどこか気持ちを動揺させた。

白澤さんに連れられて来た“地獄”は、
私や生きてる人間が思うのとは違った。
もっと現世を思わせる様な...

「ここらには花街が多く集まってるの」
「はな...まち?」

私がそう首を傾げると、白澤さんが
通りを歩いていた女の子に手を振った。
そして何も無かったかの様に私に目線を
戻すと、立ち並ぶ店々を指さす。

「千鶴ちゃんが想像する様な地獄も
もちろんあるけど、それだけじゃない。
鬼だってここで“生活”してるからね」

キャバクラ遊郭に居酒屋、屋台に甘味処...

私はそこでやっと自分なりに理解した。
...そっか、人間とさほど変わらないんだ。

家庭を持って仕事(刑の執行?)をして、
たまには居酒屋とかに行って呑んだりして
家に帰って寝て、また起きて仕事に行く。

「私が思ってたよりも人間っぽい...」
「仕事内容がちょっと違うだけさ」

白澤さんがニコリと笑う。
そして私の手を引き、とある店に入った。
そこは多分、思うに甘味処...

「お香ちゃんいるー?」

店へ入るなり白澤さんが奥の方に向かい
声をかけると、私を置いて消えていく。
私がボーッと店先に立っていると、
白澤さんは綺麗な女性と外に出て来た。

「この子が千鶴ちゃん」
「あら、小さくて細くって可愛い!!」

お香ちゃんと呼ばれていたその人は、
水色の髪に、映える紫色の着物。
そして何と帯の代わりに蛇を巻いてる。

私が主に蛇に驚き、少し後ずさりすると
彼女は私のをギュッと抱き締めた。
悔しいが大きい胸に頬が当たる。

「私はお香、ここの獄卒をしているの」
「えっと...初めまして千鶴です」

私が胸の中で自己紹介すると、白澤さん
があからさまに羨ましそうな顔を
してジーッと見ていた。

「いいなー」
「もう、白澤さんってば...」

お香さんが苦笑しながら腕を解く。
この2人は仲良いのかな?
何だか砕けた様子で話してるけど...
私は、うーんと首を捻った。

「それで今日は私に何の用かしら?」

あぁそうだ...と白澤さんが手を打つ。
そして私の肩に手を乗せた。

「歯ブラシと下着が必要なんだけどねー。
さすがに下着選びを僕が...なんてのは
ちょっと気が引けるから、頼みたくてさ」

その言葉に、お香さんが瞬きをする。

「白澤さんにしては珍しいわね」
「何ソレ、誤解を生むからやめてよ」

げんなりと白澤さんが答えると、乗せた
手をそのまま、私を前へ押した。
自然とお香さんの隣へ着く。

「僕は妲己ちゃんのお店に行ってるね〜」

ヒラリと手を振って私をお香さんの元に
預けると、白澤さんは上機嫌で花街の
奥の方へとすぐに消えていった。
お香さんはそれを見て苦笑い。

私は1人で見知らぬ土地に置いていかれ
若干心許なく、お香さんを見上げた。
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