lonely(long)

□01>兎
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バタバタと風にはためく和服の白い袖。
腕の中で確かに感じる小さな鼓動。
キイィィィッ!!!という大きなブレーキ音。
目前に迫る大型トラックの車体。

「千鶴ーーーっっ!!!!!!!!!」

遠くから叫ばれる自分の名前を聞きながら
私は強く瞼を閉じて、覚悟を決めた。


時は遡ること30分前_________


射位から的への距離は28m。
そして的の大きさは一尺二寸。
私が放った矢は一直線に的に向かう。
トスッと音を立てて矢が突き刺さった。

「千鶴」

私は、張り詰めていた呼吸を吐いて
構えの姿勢から通常姿勢に戻る。
そして後ろを振り返った。

「あっ、涼太」
「コンビニ行こうぜ、昼まだだろ?」

財布を片手にニコリと笑っていたのは、
同輩であり、副主将の涼太。
射ち終えるのを待って話掛けてくれた
この彼は、私の幼馴染みでもある。

今日は休日の自主練習。
私達の他にも何人か来ているけれど、
お昼のタイミングは各々になっている。

私は弓と矢を掛け具に戻す。

「そういや、生物部で飼育してた白い兎
が今日の朝いなくなったらしいわ」

弓道場にお辞儀をし、部室に向かう時に
涼太がそんなことをボソッと呟いた。
白い兎...名前は確かココちゃんだっけ?

「んー、早く見つかるといいね」

部室でお財布を手にすると、私達は和服
の上から弓道部の部活ジャージを着た。

いちいち着替えて外に行くのは面倒だし
コンビニは学校のすぐ側だ。
他の部員達もよくこうしている。

「何かゲージの鍵の掛け忘れだってよ」
「校外に出てないといいけど...」

学校の門を出ると、街行く人達はみんな
休日だからか私服に身を包んでいた。
ジャージに“弓道部”と書かれていなきゃ
こんな中、外には出られないなぁ。

夏のジトッとした空気が汗を誘う。

「それはそうと、お前進路どうすんの?」
「あー...そうだねー」

私はパタパタと手で顔を仰いだ。
再来週に迫った大会を最後に引退。
受験まっしぐらの日々が近付いている。

「まだ決めてないんだよね...」
「頭良いんだし、お前どこでも行けるだろ」

軽快な音楽と共に自動ドアが開いて、
ちょうどいい冷気が私達を迎えた。
学校からコンビニまでは徒歩2分だ。
立地条件はかなり良いと評判。

私達はコンビニに入ると、一直線に
食べ物が置いてあるコーナーへ行く。

「なりたいもの、特に無くってさ」

ヒョイとおにぎりを棚から取る。
梅と...それから昆布。
あとはペットボトルのお茶。

「またその日本人セットかよ」
「涼太がパンばっかり食べ過ぎなの」

ケタケタと笑う涼太の手にはパンが2個。
それにスタバの抹茶ラテ。
普通はこれ、男女逆な気がするチョイス
だけど私達は昔からこうなのだ。

「いーんだよ、俺はパンが好きなの」

私達はレジで会計を済ませると、この
オアシスのような気温のコンビニが
名残惜しくも、外に出た。
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