ハイキューboys.

□怪物と戦う者/影月
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怪物と闘う者は、その過程で自らが
怪物と化さぬよう心せよ。
おまえが長く深淵を覗くならば、
深淵もまた等しくおまえを見返すのだ。
─ニーチェ


部活終わりの居残り練習。
1人でネットに向かってサーブを打った
俺は、ハァと大きな溜め息をつく。

駄目だ、こんなサーブじゃ点は取れないし
こんなトスじゃスパイカーを使えてない。

ダンダンとボールを体育館の床につく。

簡単に言えば、最近調子が悪い。
まぁ調子が悪いなんてことはよくあるし
コンディションは日々変動するもんだ。
ただ、その調子の悪さが比じゃない。

原因は分かってる。
...先日のIH予選、対青葉城西戦。

結果は31-33で、予選3回戦敗退。

3年生は春高まで部活に残ると言って
くれてるし、1週間後には全国常連校の
高校が集まる東京での合宿も決まってる。

なのに頭に映像がこびり付いている。
及川さんのサーブ、国見の普通な笑顔、
岩泉さんの強烈なスパイク。

「......くっそ!」

俺は片手で持っていたボールを思い切り
床に叩きつけてガシガシと頭をかいた。

切り替えなきゃいけないのは分かってる。
終わった試合のこと考えても仕方ねぇし、
今は春高に向けて頑張るべきだ。
現に3年生も吹っ切れてるように見える。


でも、どうやったって...及川さんには
一生かけても追いつける気がしない。


俺はハッとして慌てて首を横に振った。
今、一瞬でも何を考えた?
アホか俺は...考えたら負けだろ。

俺はボールを拾い上げると、もう1本
サーブを全力でネットに向かって打った。

「はい、アーウト」

言葉通りサーブは大きくラインを超えた。
不意に聞こえた声に俺は振り向く。
誰もいないはずの体育館、ドアの外には
嫌味な笑顔を浮かべた奴がいた。

「随分荒れてるじゃん、どしたの王様」
「...そこで何してんだよ月島」

俺は流れる汗をTシャツで拭う。
月島は、嫌だなぁと言って肩をすくめた。
そしてシューズを入れた袋を見せる。

「忘れ物取りに来ただけ」

どうせ山口を外に待たせてるんだろう。
俺はフイッと背を向けた。

「ニーチェが見たら笑うんじゃない?」

唐突な言葉に俺は再び目線を向ける。
.....ニーチェって、何だ、人か?
月島はそんな俺を見てまた笑った。

「やっぱ知らないんだね、馬鹿なの?」
「うるせぇよ」

月島が目を閉じる。

「怪物と闘う者は、その過程で自らが
怪物と化さぬよう心せよ。
おまえが長く深淵を覗くならば、
深淵もまた等しくおまえを見返すのだ」

は、と俺は目を丸くした。
月島がクックッと肩を震わせる。
俺は気に入らなくて目線をそらした。

「あんまり深く入り込まないことだね。
じゃないと王様も...」

不意に月島と目線が合う。
俺は背中がゾッと冷たくなるのを感じた。
月島は笑いながら目を細めていた。


「怪物になっちゃうかもよ?」




fin.
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