ハイキューboys.

□欠色症/赤兎
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少し前、部活中に右膝を故障した。

何てことはなかったのだが、コーチや
監督に言われ部活をしばらく休部した。

最初こそ見学だけでもと思っていたが、
やがてそれは自分を苦しめるだけの行為
だと気付き、それからは学校が終わると
体育館には行かずそのまま帰る。

俺がバレーボールを触らなくなってから
いつの間にか1週間が過ぎていた。


「赤葦ィー、和英貸してくれー」

俺はがっくりと頭を抱えた。
ここは2階、当たり前のように何故いる...
授業の合間の10分休み、開いたドアから
見慣れた姿が俺に飛びついてきた。

「木兎さん、いい加減に自分で...」
「赤葦が貸してくれるからいいじゃーん」

ベタベタと俺に抱きつく木兎さんを見て
クラスの男子や女子がもはや微笑む。
最初は木兎さんを警戒していた人達が
多かったが、今となっては辞書をいつも
借りにくる人で通ってしまっている。

俺は大きく溜め息をついて席を立った。
ロッカーから和英辞書を取り出す。

「はい、木兎さん」

振り向いて木兎さんに辞書を手渡す。
と、その時に目に違和感を感じた。
痛いとかじゃなくてぼやけるっていうか。
俺が目を擦ると木兎さんに止められる。

「擦ったらダメだって、目薬差せー」
「あ、すいません」

目から手を離し、一瞬戸惑った。
...あれ、何か白黒。
でもそれは、何度か瞬きを繰り返すと
すぐ視界に様々な色が戻った。

「赤葦?」
「.....あ、ホラもう授業始まりますよ」

やべっ!と木兎さんが時計に目をやる。
そして俺を置いて教室を飛び出した。
廊下に出て、またチラリと顔を覗かせる。

「サンキューな赤葦!!」
「はいはい」

遠ざかっていく足音と同時にチャイムが
鳴り、教室に日本史の先生が入ってくる。
俺は慌てて自分の机に戻った。
挨拶が終わり、イスを引いて座る。
...木兎さんは間に合ったんだろうか?

俺がペンを持つと授業が始まった。


目に違和感を感じたのはつい最近。
それこそ部活を休部し始めてからだ。

乾きとか痛み、痒みは感じない。
ただ急にボヤッとしてすぐに治る。
でも、さっきみたいに視界が白黒に
なったのは初めてのことだった。

俺は目をパチパチと何度か瞬きさせる。
...いや、何ともないな。

顕著な違和感があればこそ病院に行くが
たまに霞むだけだし、まぁ大丈夫だろ。
それに今は幸い部活も休んでるし。

「赤葦、2行目から読んでくれ」

急な先生からの指名にハッとする。
そして慌てて教科書に目を落としたが、
また、違和感。

「......?」
「赤葦ー、聞いてるかー?」

とりあえずハイと返事をして目を擦ると
ボヤけていた視界が元に戻る。
俺は先生に謝ってから読み始めた。


その日は、それから視界が霞むことも
白黒になることもなく過ぎていって
俺は病院や体育館には行かず帰宅した。
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