ハイキューboys.

□例えば/研黒
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「重い....」
「ほら、持ってやるから寄越せ」

俺は電車の中で大きな荷物を抱える
幼馴染みを一瞥し、それから苦笑した。
紙袋からはみ出る本や、おかしな被り物、
食べ物に、大きな大きなぬいぐるみ。

荷物を受け取りながら腕時計を見た。
2014年10月16日。
今日は幼馴染みが生まれた日。

「そのぬいぐるみ、リエーフだっけか?」
「高校生にもなってぬいぐるみって...」

だるそうに大きな欠伸をする研磨は、
ちょうど空いた席に座ろうとしてから
老人が、側に立っているのを見て止めた。
俺達は電車の揺れに身を任せる。

「でも案外楽しそうにしてたじゃねーか」
「何言ってんの、やめてよクロ...」

身長的に俺から研磨の顔は見えないが、
髪から少し見える耳が赤くなった。
存外、嘘でもないらしい。
もっとも今まで盛大に...いや、バカらしく
祝われたことが無くて、結構嬉しいのか。

紙袋に詰まった、実用性皆無...だけども
どこか男子高校生らしいプレゼントの数々に
幼馴染みとして俺も感じるものがある。
いや、成長したな研磨も...

「な...なに、クロ」
「いんや別に?」

ジト目を送る研磨を見つめて、俺がニッと
笑うと研磨は露骨に嫌そうな顔をした。
ジャージに手を突っ込みスマホを取り出す。
俺は窓から、流れる景色を眺めた。


...例えば俺がバレーをやってなかったら。
こいつの髪は今でも真っ黒だったかな。

例えばコイツと幼馴染みじゃなかったら。
“孤爪研磨”という名前を、頭の片隅にも
引っ掛けないで今を過ごしてたかな。

コイツとバレーをやってなかったら。
もしかしたら俺は折れてたかもな。
そんで、もうバレーなんか辞めてたかも。


例えば...例えばって。
積み重ねる度、アイツの存在がデカくなる。
俺が研磨を支えてるって思ってたけど、
気づけば俺の方が支えられてたか。
こんな細っこい背中に、俺はどうしようも
なく安心するし、頼れると思うんだ。

「なぁ、研磨」
「...なに」

名前を呼べば研磨が俺を見上げる。
やっていたゲームがポーズ画面になっていて
俺はそんなことにすら笑いがこぼれた。

「バレー楽しいか?」
「...別に、クロがやってるからやってるだけ」

その答えも、いつもと変わらない。
だから別にどうとも思わない。
ガタンと電車が揺れる。
俺はよろける研磨のジャージを掴んだ。
...まぁ、これもいつものこと。

「だろーなとは思ってた」
「でも」

研磨と目が合う。
とても穏やかな表情だった。
俺は、思わず目をパチクリとする。

「最近はちょっと...楽しい」

研磨はそう言うと、そそくさとスマホに
目線を戻してゲームを再開した。
...はぁ、不意打ちねぇ。
俺はケッと笑って研磨の頭に手を乗せた。


「研磨、誕生日おめでとう」
「ちょっと...クロ、邪魔」




fin.
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