ハイキューboys.

□“助けて”のサイクル/赤葦
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人の心は例えるなら“風船”のようだ。
昔、何かの本で読んだことがある。

風船は、自分の心の容量。
それで空気は言わばストレス。
少しずつ少しずつ風船は膨らんでいって
いいことがあれば少しだけしぼんで。


「赤葦、今日調子悪いのか?」
「すいません...トス乱れてましたか」

部活後、木葉さんが苦笑しながら言った。
あー...そんな顔をして、俺を気遣うくらい
ならいっそ、ひと思いに言って欲しい。
でもそれはさすがにショックか。

「ま、明日には戻るだろドンマイ!!」
「......ッス」

木葉さんが背中を向けて俺を置いていく。
図らず、多少なりとも溜め息が出た。
明日には戻る...か。

風船が少しだけ膨らんだ。

「赤葦、ちょっと頼みたいんだが」
「あっはい、監督」

木葉さんの背中を見送ると、次は続いて
監督のお出ましだ、あぁ面倒くさい。
だけど俺はデキる副主将なハズなんだ。
嫌な顔をせずに振り返る。

「このスコアまとめといてくれないか?」
「...こういうのって主将の仕事じゃ」

背後のコートから、サーブの音がする。
振り返れば木兎さんが笑っていた。
あぁ、もうほんとにしっかりしてくれ。

「...分かりました、いつまでですか」
「明日までに頼む」

明日とか...はぁ、もうなんて急な。
監督は半ば押し付け気味に俺にプリントと
ノートを渡すと体育館から出ていった。
気持ちが折れたら負け。

風船がまた膨らむ。

「赤葦、スパイク練習!!」
「でも今日の俺、調子悪いですよ」

顔を見なくても誰が言ってるか分かる。
少しだけ振り向くのに時間を要した。
表情をリセットし直すために。
そして振り返ると、やはり木兎さん。

「気にすんな、ホラやるぞ赤葦!!」

ここまで来ると逆に清々しい。
モヤモヤした気持ちが晴れる気がする。
俺は床のボールを拾い上げてトスを上げた。
やっぱりいつも通りの感覚ではなくて、
空中で一瞬、木兎さんの顔が歪む。

「あー...確かに打ちづらい感じはあるわ」
「...す、いません」

風船が膨らむ、さっきよりも大きく。

木兎さんは眉を下げた。
あ、これ俺の嫌いな表情だ。
この顔をするのはいつも不満な時。

「俺、今日はもう上がります...」
「分かった、お疲れ赤葦ちゃんと寝ろよ」

ぺこりと頭を下げて踵を返す。
ちゃんと寝ろよ、ねぇ。
アンタのせいで仕事があるんですけどね...
そんな思考回路に自己嫌悪。
着実に、風船は膨らみ続ける。

「そういえば数学の課題あったっけ」

...今日は徹夜覚悟か。
まったく、とことんツイてない日だ。

俺は重たい体を引きずりながら部室で
着替えを済ませて、夜の路線バスに乗り
30分かけてやっと家へと帰ることが出来た。
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