ハイキューboys.

□及川徹という人間/及岩
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及川徹は昔からよく泣く奴だった。

転んでは俺に泣きついて来た。
しかも黙って泣けばいいのに、うるさい。
バレーを始めてからも、負けて泣いて。
悔しいよ、といつも泣いていた。


でもアイツは泣き終えると、涙を拭いて
「出来なかったとこ、もう1回!!!!」
そう言って俺の手を力強く引っ張った。

だから、泣くのはアイツがステップアップ
するために必要なものなんだと思って、
俺は敢えて何も言わなかった。
泣いているアイツの横にずっといた。


アイツが泣かなくなったのはいつだっけ。


中学3年、部活に後輩が入ってきた。
影山飛雄と言うらしい。
バレーが好きで、セッターらしい。
見ていて分かった、あぁコイツは天才だ。

高いコントロール力、溢れ出すセンス。
身体にも恵まれた、そんな後輩。


及川は、影山に怯えていた。
いつか抜かされる。

及川徹はバレーが上手いが天才ではない。
強豪青葉城西の主将を背負っているが
その強さは努力の証だと俺は知っている。

天才はその努力でさえ追い越していく。

だから及川は怯え、焦っていた。
後ろから迫り来る天才に。
ただ笑顔だけは崩さないように。


前にも、追いつけない天才はいた。
“怪童”牛島。
東北で唯一の世界ユース入りを果たした。
中学の時から、勝てなかった。


及川は後ろも前も天才に挟まれて、
息絶え絶えに走り続けていた。
足を動かせ、立ち止まるな。
止まれば牛島が遠ざかって行く。
止まれば影山に背中を掴まれる。


そして、アイツから笑顔も涙も消えた。


ただひたすたらに練習に打ち込む姿が
痛々しくて、何度も止めて帰らせた。

アイツは魂が抜けたような顔をしていた。

こんなことになるなら、もっとちゃんと
泣かせておくべきだったかな。
昔は放っておいても勝手に泣き出したが、
今となっては、もう泣き出さない。
だから俺が泣かせてやるべきだった。


そしてアイツは言った。

『今の俺じゃ白鳥沢に勝てないのに
余裕なんてあるわけない!!!!!
俺は勝って全国に行きたいんだ。
勝つために俺はもっと!!!!!』

あーあ...馬鹿だなコイツ。
何で1人で戦おうとしてんだよ。
落ち着いてお前の周りを見てみろよ。

お前の周りにはいるだろ、仲間も、俺も。
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