ハイキューboys.

□最後の/赤兎
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それはスローモーションの様に見えて、
実はコンマ数秒かの一瞬のこと。

ボールがラインを超えて、ラインズマン
の旗がさっと上に上げられたのを見て、
俺はただ目を瞑ることしか出来なかった。


春高バレー準々決勝、梟谷敗退。
敗因は最後の俺のトスミスだった。


何度も上げたはずのいつも通りのトス。
相手のセットポイントで、ミスれば即
ゲームオーバーのその場面。

木兎さん!!といつも通り名前を呼んで、
いつも通りのトスをあげた。
...つもりだった。

トスは思い描いていた放物線よりも僅か
上を行き、木兎さんの手に当たる。

あぁ、やっちゃったな...

そんなことを思う暇もなく、コースの
ズレたスパイクはラインを超えた。
点数表がめくられて、笛が鳴る。
試合、終了。

「木、兎...さん、俺」

出た声に、自分でも少し驚いた。
いつもより細い声が小刻みに震えていた。

「...赤葦、スマン」

ゆらりと木兎さんの目に俺が映る。
その目は、しっかりしていた。
手が、足が、体が、全身が震えている。

「泣くな、まだ俺達コートの上にいる」
「......っ」

漏れそうになる嗚咽をこらえると、木兎さん
の手が俺の背中を支えて整列を促した。
その手が震えていたのを、俺は忘れない。

整列も握手も終えて、負けたものはコート
から出なくてはいけない、悔しい。
もっと、もっと...戦いたかった。
もっとトスを上げたかった。


ロッカールームに戻って、監督からの
話を聞いて、泣いている先輩や後輩達を
見て胸が締め付けられて痛くなった。

俺が涙をこらえながらタオルを頭から
かぶると、肩に手がぽんと置かれる。
その優しさが誰だか、すぐに分かった。

「赤葦、ちょっと外行くか」
「......は、い」

促されるまま、木兎さんと俺だけが
ロッカールームを後にして、廊下に出る。
人気の無い所まで行き、ベンチに座った。

「木兎さん...俺、最後トスミス...」
「気にすんなって、アレは俺のミスだ!!」

木兎さんをチラリと見ると、いつも通り
豪快に口を開けて笑っていた。
...逆に、苦しい。

「赤葦のトスは、なーんもミスってねぇよ?
俺のスパイクが決まんなかっただけだ」

ごめんな、そう言った木兎さんの表情は
一瞬だけだったが、切な気だった。
あ...泣く。
そう思った時にはもう泣いていた。

「赤葦、どうした?!」
「最後の...っ、トス、でした...」
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