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□08>亀裂
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数日後。

「...また無くなってる」

私はリュックの中を探る手を止めて、
大きく溜め息をついた。
机に突っ伏すると、前の席の友達が後ろ
を向いて私の頭をポンポンと叩いた。

「なしたの、また何か無くなったの?」
「んー...今日はシャーペン」

また、と言うのもこれは最近の恒例だ。

最近になってよく物が無くなっている。
リュックに付けていたキーホルダーとか、
バスカード、筆記用具とかノート。

ノートなんて盗ったところでどうすんの。
綺麗にまとめてるわけでもないのに...
ただバスカードとかはかなり困る。

「はい、貸したげるからヘコまないの」
「優里香ー...ありがとー」

私は優里香から差し出されたピンクの花が
あしらわれたシャーペンを受け取った。
これは無くせないし、気を付けないとな。

でもさぁ、と優里香が頬杖をつく。

「ソレって犯人の心当たりないの?」
「あー...んーと、無い...かなぁ」

私がアハハ...と笑ってごまかすと、
優里香のじとっとした目線を向けられる。
と、その時授業開始のチャイムが鳴った。
仕方なしに、優里香も前を向く。

心当たりは、まぁ...あると言えばある。

4月半ばから始まった盗み。
うちの学校は2年から3年に上がる時に
クラス替えは無いし、皆を疑っていない。

心当たりがあるとすれば...部活。

着替えは女バレの部室でしているけど、
リュックなどの荷物は、基本的に男バレ
の部室に置くことになっている。

自分専用のロッカーを持ってる部員は、
鍵をかけていたりいなかったり。
徹なんかは好かれた女子に何をされるか
分からないから、いつも施錠している。

でも私や伊原ちゃん、八雲ちゃんは
自分のロッカーがあるのは女バレの部室。
荷物は男バレ部室のベンチの上に放置
していたりでプライバシーなんかない。

だから極端な話、鍵のかかっていない部室
にリュック放置じゃ誰に何をされても
おかしくはないって話なワケだ。

...ロッカーに入れさせてもらうか。

盗みのこと、徹と一は知っている。
心配させると思って言わなかったけど、
さすがにすぐ気づかれてしまった。

ロッカー使うかい?って言われた時は
断っちゃったけど...やっぱりこれ以上モノ
が無くなるのは困るしなぁ。

チラっと窓際の席を眺める。
一の席の前に座っているのは徹。

ほんと腐れ縁だよなぁ、あそこ。

と、徹のシャーペンをピクリと止まる。
そして私と目が合った。
見てたの気づかれたのかな...

「?」

徹が微笑みながら首をかしげたのを見て、
私は苦笑して首を横に振った。

「なんでもない」

徹を授業に戻らせたところで、私は
頬杖をついて溜め息をつく。
...やっぱり心配かけたくないなぁ。

「如月」
「へっ、あ、はい!?」

ガタタッと席を立つと、先生が呆れながら
私の方にチョークを向けた。
優里香はパクパクと口を動かしている。

「問3、当たったよ」
「あ...えと...スイマセン分かりません」

先生が溜め息をつき、クラスの皆からは
笑われ私はおずおずと椅子に座った。
まったく...今日はいいことがない。
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